最終話 俺は俺だ
目を開くと、自室の天井が見えた。
「……生きていたか」
声が高い。
体が軽い。
いや、軽すぎる。
視界の端に映った自分の手は、細く小さい。
「……」
起き上がると、扉が開いた。
後輩が飛び込んでくる。
「先輩っ、よかった…!」
頬に、首に、腕に。
白いガーゼがくっついている。
服で隠れている範囲にも、傷があるのだろう。
「…大丈夫か」
「はい! 頑丈なのが取り柄ですから!」
「…そうか。…ありがとう」
後輩は眉を下げてじっと俺を見る。
「子供時代の先輩を見られるなんて、眼福ですが…」
後輩が、ベッドの横にしゃがんで俺を見上げる。
「俺の時間を、先輩に渡すことはできますか?」
…全く。
魔法学校時代からまとわりついて、勝手に火の粉を払って、卒業しても押し掛けてきて、俺を守ろうとする。
今回ばかりは、お前に守られてやらない。
「馬鹿め。せっかく若返ったんだから、受け取るわけないだろう。見ろ、この張りのある肌を!」
「でも、豊かだった丘が…なんでもありません」
後輩が二度、目を瞬いた。
「…あれ? メリットなの?」
「頃合いを見て繰り返せば、何百年何千年でも生きれるかもな」
「え、俺も! 俺にその魔法を伝授してください!」
俺は小さく笑い、窓の外を見た。
市場が賑わっているざわめき。
採掘再開を知らせる声。
魔石価格は、徐々に安定していくだろう。
あの時の大魔法が、逆流したのか。
はたまた、「亡霊」の恩返しか。
俺はベッドから降りた。
「腹が減った。飯つくってくる」
「若返っても食欲は変わらないんですね」
「お前に食わせる分はない」
「えっ」
「冗談だ。休んでろ」
「……先輩、やっぱり先輩だ」
市場の鐘が鳴る。
魔石は再び、適正価格へ。
世界は回り出す。
俺の時間も、もう一度――最初から。




