第一話 魔石が買えない
買い物から帰った後輩が、満面の笑みで紙袋を差し出してきた。
「先輩! 服、買っておきましたよ!」
「おー、助かる。サンキュ」
何気なく受け取って、中身を確認した俺は固まった。
ピンク。
フリル。
後輩が、にこにこと毒気のない笑顔で報告する。
「先輩に似合いそうなの探して、十件も梯子しちゃいました!」
俺は無言で、小さな電撃を指先から飛ばした。
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数か月前。
魔石の価格が三倍まで跳ね上がった朝、俺は乱暴に帳簿を閉じた。
赤字だ。
チート級とまで言われる俺の魔法も、燃料がなければただの飾りだ。
「魔法使いが魔法を封じるって、矛盾してません?」
向かいに立つ後輩が眉をひそめる。
真面目で腕も立つ、俺の相棒だ。
「封じているわけじゃない。使えないだけだ」
後輩は何か言いたそうな顔をしたが、黙った。
正解だ。
北方鉱脈に上位魔物が棲みつき、採掘隊は壊滅。
流通は停止、価格は暴騰。
討伐依頼は出ているが、報酬は後払い。
しかも成功すれば、だ。
――魔石がなければ、討伐にも行けない。
後輩が内職をしながら、独り言のように言った。
「俺たち、魔法使いじゃなくて荷運び屋ですよね、最近」
「荷運び屋の方が、今は稼げるからな」
「……先輩、それ悲しいこと言ってますよ」
悲しかろうが、事実だ。
俺は帳簿を引き出しに押し込んだ。
夜、一人で魔法の本を読む。
もう、久しく魔法を使えていない。
ページをめくる手が、止まった。
俺は本から目を離し、自分の掌を見た。
小さなろうそくの明かりが、ジジ、と揺れた。




