Heilongjiang
# 2032年、ハルビンの冬
朝6時半、ハルビンの空はまだもやもやとした灰色の色調に包まれていた。松花江の畔の樹氷が、だんだん明るくなる空の光の中で細かな銀色の輝きを放っていた。Xiao Na は新しく購入した電動SUVを友誼路の脇に停め、窓を半分下ろすと、吐き出した白い息が零下25度（れいか25ど）の空気の中で瞬く間に氷の結晶に変わった。彼は向かい側にある「老六餛飩館」のネオンサインが夜明けの光の中でゆっくりと点滅するのを見つめ、指は無意識にハンドルを軽く叩いていた。
「この天気、本当に寒いな」
Xiao Na はつぶやきながら、羊革の手袋をハンドルの上にぽかりと置くと、眼角の余計な視線で街角からゆっくりと近づいてくる背の高い人影を捉えた。
Suo Zi はやや古びた黒いダウンジャケットを着て、襟を立てて半分の顔を隠していたが、歩くときに風を切るような姿勢は丝毫不減っていた。Xiao Na は彼を長い間見つめていたが、相手が窓ガラスを叩いた瞬間、やっと気づきロックを解除した。
「Na総、この車、百万（元）くらいするんだろ？」
Suo Zi が助手席に乗り込むと、冷気が一気に入り込んだ。彼は目じりにシワを寄せて笑いながら言う。「ここで俺に自慢してるのか？」
「自慢するかよ」
Xiao Na は鼻哼みで笑い、相手の丈夫な胸を軽く叩いた。「三年ぶりだけど、口は相変わらず悪いな」
餛飩館の中は湯気に包まれて暖かく、女将は慣れた手つきで二人分、量を増やした肉餡餛飩を運んできた。Suo Zi はジャケットを脱ぐと、中にはタイトなフィットネスベストが見え、膨らんだ胸筋が生地をギュッと張っていた。Xiao Na は餛飩の汁をすくいながら、無意識に相手の腕にもつれた青筋やうねる筋肉のラインを瞥き、心の中で密かに賞賛した。
「テニスコートを開いたって聞いたよ？」
Suo Zi はごくごくと汁を飲みながら、顔を上げると口元に油がついていた。「すごいな、昔クラスで一番騒ぎたがりだった君が」
Xiao Na はティッシュを渡しながら言う。「南岗区に室内コートを作ったんだ。君、ジムで知り合いが多いだろ？顧客を紹介してくれない？」
Suo Zi は口を開けて笑い、突然立ち上がってカウンターに向かった。Xiao Na は眉を寄せて彼が冷蔵庫の前で選ぶのを見ていたが、戻ってきたときに手には56度の老村長白酒两瓶を持っていた。
「ちょっと飲む？」
Suo Zi はテーブルに酒瓶をドンと置く。「朝早く飲むと体が温まるだろ」
Xiao Na の顔色は急に暗くなった。「運転してきたんだから、飲むかよ」
「代行運転を呼べばいいじゃん」
Suo Zi はまだ笑顔を浮かべていたが、目つきには少し抜け目がなさが見えた。「Na総今、こんなに偉くなったんだから、こんなことで困るわけないだろ？」
「Suo Zi」
Xiao Na は箸を置く。「俺にこんな手を使うのか？」
空気が一瞬固まった。Suo Zi の笑顔はゆっくりと消え、指は無意識に酒瓶のラベルをなぞった。窓の外では細かい雪が舞い始め、ガラスについて筋状の水痕に変わった。
「わかった、俺のせいだ」
Suo Zi は酒瓶を片側に押しやった。
Xiao Na はしばらく彼を見つめていたが、突然笑い出した。「君、昔クラスで一番手強かったのに、今はこんなこともするようになったのか？」
「生活に追われてな」
Suo Zi は肩を shrug し、ベストの下で筋肉が動いた。「君も変わったじゃん？昔は猿のように痩せてたのに、今は……」彼はXiao Na の腕をつまむ。「鍛えたのか？」
「ジムに通って数年になるよ」
Xiao Na は彼につままれるのを任せ、相手の指先のコールスキンが生地に当たるのを感じた。「君も顧客を紹介してくれ？手数料を払うよ」
Suo Zi は大声で笑う。「もちろん！男でも女でもいいよ！」
「男女両方対象なのか？」
Xiao Na は眉を上げた。
「そりゃあ、金を稼ぐんだから」
Suo Zi は目をかすめた。
二人は高校時代の思い出話を弾ませ、授業をサボってネットカフェに行ったことから、先生の自転車の空気を抜いたことまで話した。Xiao Na はSuo Zi が前かがみになって笑う姿を見ながら、恍惚の中で16歳の頃に戻ったような気持ちになった。だが、Suo Zi が無意識にタバコを取り出してはまた戻す姿や、女将に料理を追加するときのあまりに慣れた態度を見るたび、Xiao Na の心は理由もなく重くなった。
雪はますます激しくなり、窓の外を白いカーテンのように覆った。Suo Zi の携帯電話が突然光り、ブンブンと震えながらテーブルの上を回った。彼は画面をちらっと見ると、顔色が少し変えて携帯を取り上げ立ち上がった。「電話に出る」
Xiao Na は彼が急いでトイレに向かう背中を見つめ、指は無意識にテーブルを叩いていた。餛飩の汁はだんだん冷めて、表面に一層の油が固まった。
その瞬間、テーブルの上に置かれたSuo Zi の携帯がまた光った。通知がポップアップし、ロック画面で水色のアイコンが点滅していた。Xiao Na は目を細めると、それは内緒の知り合い同士が使う交友アプリの通知らしかった。
雪片が窓ガラスにポタポタと当たる音がした。Suo Zi が戻ってきたとき、Xiao Na は彼の携帯を見つめており、画面の青い光が彼の眉を照らしていた。
「説明しろ」
Xiao Na は携帯を回して渡す。「『あなたの500メートル先に新しい友達がいます』って何だ？」
Suo Zi の顔は一瞬で真っ赤になり、携帯を取り返そうと手を伸ばした。「くそっ、ゴミ広告だ……」
Xiao Na は彼の手首を一気につかんだ。触れると熱くて灼けるようだ。「俺に嘘をつくのか？」彼は親指で相手の出っ張った腕骨をなぞった。「三年ぶりに会ったら、嘘をつくようになったのか？」
窓の外では雪が白い渦巻きを描いていた。Suo Zi はその場で固まり、喉仏が上下に動き、Xiao Na につかまれた手が微かに震えていた。
「だからテニスコートは言い訳？」
Suo Zi の声は乾いていた。「君はもう知ってた……」
「推測しただけ」
Xiao Na は手を離し、指先で相手の手のひらをなぞった。「さっき君を見た第一眼から怪しかった——フィットネスコーチの体つきがこんなに堂々として出众なわけがないだろ？」
Suo Zi の耳先は血のように赤くなり、長い間言葉を詰まらせた後、やっと口を開いた。「君は……くそっ」
「車でどこか行こう？」
Xiao Na は少し近づき、息を相手の口角にかけた。「懐かしい話をしよう？」
SUVは雪の中を江畔のホテルに向かい、車内は暖房のサイズル音だけが静かに響いていた。Xiao Na は片手でハンドルを握り、もう一方の手はSuo Zi の手に軽く乗せ、相手の手のひらの温度を感じていた。
豪華なスイートルームのドアが閉まった瞬間、Xiao Na はSuo Zi をそっと抱き寄せた。ダウンジャケットが床に落ちると重たい音がし、二つの体は密着してお互いに温もりを求めた。
「ちょっと待て……」
Suo Zi は頭を逸らしてXiao Na のキスを避けた。「先にシャワーを浴びるから……」
「嫌いなのか？」
Xiao Na は彼の耳垂りを軽く噛み、手で汗をかいた背中の筋肉を撫でた。「鍛えたね……よく頑張った」
Suo Zi は息を荒くしながら逆に主導権を握り、Xiao Na を壁に押しつけ、膝でそっと彼の脚を開いた。「自業自得だ……」
暖房は強すぎて、頭がくらくらするほど熱かった。二つの体はもがき合いながらベッドに倒れ込み、羽毛布団が雪の波のように彼らを包み込んだ。
Xiao Na が目を覚ましたとき、最初に感じたのは暖かさだった。分厚い遮光カーテンの隙間から一筋の朝の光が漏れ、Suo Zi の背中に金色の輪郭を投げかけていた。彼は静かに隣の人を見つめ、自分より荒々しいライン——広がった背中の筋肉、翼を広げたような僧帽筋、腰の横に深く刻まれた溝、その下で急に細くなる腰回りと突然膨らむ臀筋——を目でなぞった。
Xiao Na は音も立てずに近づき、鼻尖で相手の腰の下の溝を擦った。Suo Zi は眠りの中で低くうなずき、筋肉が無意識に収縮した。Xiao Na は低く笑いながら彼の背中にキスをし、手を腰のラインに沿って前に伸ばし、そっと彼の手を握った。
朝の光が遮るものなく二つの交錯した体に注がれ、空気の中に淡い優しさが満ちた。Xiao Na の古銅色の背中の筋肉から細かい汗がにじみ出り、動きに合わせて肩甲骨の上に塩辛い水滴が集まった。Suo Zi は彼の腰を掴む指関節をますます力強く締め、肌に薄い赤い跡を残した。
「もうすぐ醒めるよ……」
Xiao Na はもちろんと言いながら、Suo Zi はすぐに目を開いた。二人は互いに笑い合い、目の中には満ち足りた優しさがあった。
Xiao Na は力を抜いて倒れ込み、Suo Zi の上に乗りそうになったが、Suo Zi が腰を抱えて横に翻せた。汗をかいた二つの体は寄り添いながら息を荒くし、空気の中に幸せな雰囲気が漂った。
「どうだ？」
Suo Zi は彼の汗で濡れた前髪をかき分けた。
Xiao Na はだるそうに相手の胸の汗を舌でなめ取った。「まあまあだね」
窓の外から、雪に押されて松の枝が折れるキュッとした音が伝わった。彼らは布団に包まりながら眠りにつき、交錯した足の間にはまだお互いの温度が残っていた。
