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第6話「母子の不安と恐怖」

 家に帰ってきた俺は、さっそく母さんのところへと向かう。

「あ! お帰り雄飛♪ たくさん買い物頼んじゃってごめんね?」

 自分の部屋から顔だけを覗かせて、微笑んでくれる母さん。

 俺は買ってきたものをテーブルの上に置きながら、大丈夫だよと返した。

 母さんの様子を見て、まだあのニュースを知らないんだと確信した。

 仕事に集中していてニュースを見る暇なんてなかったんだろう。

「ねぇ……母さん、話したいことがあるんだ」

 俺の声と表情を見て、母さんは表情を曇らせて何かあったの? と聞いてきた。

 テレビを点けてチャンネルを回すとワイドショーが映った。

 俺はコーヒーを淹れながら、母さんに少し休憩するように言う。

 ソファに座る母さんのところに、俺と母さんの分のコーヒーを持って行く。


 俺が腰を掛けるのとほぼ同じくして、例のニュースが始まった。

「秀……ちゃ……ん……?」

 画面に映し出された河南乱下、そして……俺たちの家族だった種吉秀。

 俺がショッピングモールで見たのとほとんど同じ内容のニュースが流れる。

 もちろん、乱下や秀の会見映像も。

 これまでの母さんなら涙を流して、胸を痛めていた。

 けど……。

「雄飛……大丈夫だよ。ママがついてるからね……」

 そう言って微笑む母さんは、今までの守られるだけの母さんじゃなかった。

 抱きしめてくれたその腕は、優しくもしっかりとした強さを感じる温もりだった。

(母さんも強くなってるんだ……。俺も、しっかりしないと)

 俺は母さんに深く感謝して、ぎゅっと抱きしめ返した。

 そして決意を固めるのだった。

「俺……Ouroborosと戦うよ」

 俺がそう宣言すると、母さんは驚いたように目を見開くも、さらに強く抱きしめる。

「うん。私も一緒に戦うよ。絶対に私たちの大切な人たちを守ろうね」

 俺は母さんの温もりに包まれながら、しばらくそのままでいるのだった。



 その日の夜、入間さんに再度連絡を試みる俺だったがやはり電話にも出ないし、メッセージも確認済みにならない。

 引っ越し中だからかな?

 それともまさか……。

 嫌な予想も脳裏に浮かんでしまう。

 最近命を狙われていると言っていたから、本当に入間さんの身に何かあったんじゃ……。

 俺はよく眠れずに、朝を迎えるのだった。



 そしてその日の夜の夢では……。

 俺と母さんが病室のような部屋に入れられている。

「ゆ、雄飛ちゃん……ごめん……ね……ママ、もう……」

 薬が完全に切れて数日経った、俺の魅了の能力の影響で、これまで抗っていた母さんの理性に限界が訪れていた。

「雄飛ちゃん……ママ、もうダメ……。だから……」

 そう言って母さんは俺をベッドに押し倒す。

「か、母さん!? な、何を!?」

 俺は慌ててそう声を掛けるも、母さんは止まらない。

 だけど俺も同じだった。もう、"ママ"を女性として見てしまっていた。もう、我慢できない。

「ママ……」

 俺は母さんに抱き着いた。2人とも完全に理性を失くしてしまっていた。

 そんな俺たちの姿を見て、秀がほくそ笑む。

「雄飛、舞歌……我らの神を、丈夫に産んでくれよ?」

 その言葉に悔しさや絶望、もうどうでもいいという諦め、大好きな女性と快楽に溺れたいという欲望、様々な感情が渦巻いていく。

「はぁぁあっっ!!」

 そこで目が覚めて、汗だくになっていた俺は飛び起きた。

(くそ……! 昼にあんな映像見たり、薬が効かなくなったりしたからか……。焦ってるんだ、俺……。強くならなきゃって……)

 汗を拭い、枕元にあった水を一気に飲み干す。

 眠くはないが、再び体を横たえてみた。

 なかなか寝付けない夜を過ごすのだった。



 眠りの中、私は薄暗い病室にいた。

 不気味なほど静かなその部屋の中で、目の前にはベッドに座る雄飛がいた。

「雄飛ちゃん……」

 思わず名前を呼ぶ私の口元は震えていた。

 頭の奥では「ダメ」「これは間違ってる」と叫ぶ声がする。けれど——

 体が……勝手に動く。

 私は、息子に向かってゆっくりと歩み寄っていた。

(ダメよ……私は母親なのに……)

 けれど同時に、薬が切れて何日も経った今、雄飛の発する "匂い" "気配" "色気"……

 その全てが、私の母性を甘く蕩けさせ、女としての本能を刺激してくる。


「ごめんね……ママ、もう……我慢できないの……」

 涙が零れそうになる。だけど私は、彼をそっとベッドに押し倒していた。

「か、母さん……!? な、何を!?」

 戸惑う雄飛。けれど、彼も同じなのだと感じた。

 彼の視線にも、抗いきれないほどの欲望が滲んでいた。


(雄飛……やっぱりあなたも……苦しいんだね……)

 私は彼の胸に顔を埋める。溢れる愛情とも欲望ともつかない涙が頬を伝った。


 その時、暗闇の中から聞き慣れた声が響く。

「——よし、いい子たちだ」

 声の主は、私の夫であり、雄飛の父であり、Ouroborosの幹部——種吉秀だった。

「雄飛、舞歌……。さあ、我らの神を……丈夫に産んでくれよ?」

 その言葉に、私は絶望のような、安堵のような、混ざり合った感情を覚えた。

 これは愛なのか、狂気なのか、もう自分でもわからない。

(いけない……こんなこと、絶対に……)

 けれど、理性が声を上げる前に、私は雄飛を抱き締めてしまっていた。


「……雄飛ちゃん……愛してるわ……」

「ママ……」

 雄飛もまた、私の背にそっと腕を回していた。

 ——狂おしい幸福感と、罪悪感。

 それが混ざり合い、私たちは底のない奈落に堕ちていくような錯覚に囚われていく——


 ――そこで、私は飛び起きた。

(はぁ……はぁ……!)

 額には冷や汗が流れていた。

 心臓はドクドクと早鐘のように脈打っている。

(夢……だったのね……)

 震える手を胸に当て、必死に呼吸を整えようとする。

(私……何て夢を……)

 いつもなら守るべき息子を、私は……。

 けれど、それは他人事ではない。私も「魅了」の影響を受けている。

 息子を大切に思う気持ちすら、もはやどこまでが母の愛で、どこからが女の欲望なのか曖昧になりつつある。


「……強くならないと……私も、雄飛ちゃんも……」

 自分にそう言い聞かせ、もう一度横になるも、しばらく眠れぬ夜が続くのだった——。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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