表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/6

第4話「茉純との再会、ニュー東京の脅威」

 学校が休みだった俺は、1人で買い物に出かけることにした。

 母さんは今日は家にいるけど、デザイン案を急ぎで仕上げなくてはならないらしく、土日も仕事に追われている。

 朝食を済ませた俺は、母さんに声を掛けて外に出る。

「じゃあ母さん、行って来るね。何か買うものあったら連絡して」

「うん、わかった。行ってらっしゃい雄飛♪」

 母さんは俺の方へパタパタと歩いてきて手を振る。俺は微笑みながら手を振り返す。


 家を出た俺は、平和連合軍の岡山支部のビルへと足を向けていた。

 昨日から茉純さんが、岡山支部に合同訓練のために来ているらしい。

 茉純さんは、平和連合軍の兵士として世界各地に赴いている。

 華怜の情報について、何か得られていないだろうか?

 それを一番知りたいのは茉純さんだろうけど……。

 そんなことを考えながら、

 俺は岡山支部の建物に辿り着き、受付で茉純さんに会いに来たことを告げる。

「はい。話は聞いていますのでどうぞ」

 受付の女性はそう言って俺を奥へと案内する。

 廊下を少し進むと、奥の部屋から銃声が聞こえてきた。見上げると「射撃訓練場」というプレートが。


 俺がドアから顔を出すと、茉純さんと数人の兵士が真剣な表情で射撃訓練を行っていた。

 ほんの少し前に兵士になったとは思えないほどの射撃技術に、俺は思わず息を飲む。

「はぁ……はぁ……」

 茉純さんは射撃を止め、銃を下げる。兵士の1人が彼女にタオルを手渡した。

「ありがとうございます」

 茉純さんがそれを受け取ると、兵士は口を開く。

「いや、さすがです! もう俺なんかより全然うまいですよ!」

 兵士の称賛に、茉純さんは首を横に振る。

「いえ……そんな。まだ全然です」

 そこで俺に気づいたのか、茉純さんがこちらに歩み寄ってくる。

「あら! 雄飛くん。もう来てくれてたのね♪」

「お久しぶりです、茉純さん。……お邪魔でしたか?」

 俺がそう聞くと、茉純さんはフフと笑う。

「邪魔だなんてとんでもない! ちょうど休憩しようと思ってたところだし」

 ……まるで別人のようだと思う。転生者の俺、そしてさらに転生経験の多かった華怜を除いても、一緒に過ごしたり、逃げたりしていた当時は、俺の母さんよりもさらに気弱な印象だったのに。

 彼女の表情には一切の弱さも甘えも無かった。よくいる1人の心優しき母親だった彼女が、今は非情なテロリストや、ヤツらの使役する生物兵器と闘う戦士なのだ。

 愛する娘の華怜が、戻れなかったばかりに……。


「茉純さん。……華怜の安否は、まだ……?」

 俺がそう切り出すと、彼女は目を伏せて答える。

「……ええ。……私もずっと行方を追ってはいるのだけれど……」

 彼女はふぅと息をつく。

「いえ……! そんな……茉純さんは立派に戦ってるじゃないですか!」

 俺がそう言うと、茉純さんは首を振る。

「そんなことないわ。私はただ、小さい子供たちが安心して暮らせる場所を作りたいの。そして、華怜を必ず取り返す。……それだけなの」

 彼女の目には、強い意志が宿っているように見えた。

 茉純さんも、ずっと探し続けているんだ。華怜を……自分の娘を。

「茉純さん……」

 俺がそう言うと、彼女は微笑む。

「そんな顔しないで? ……大丈夫、きっと華怜は生きているわ。絶対にね」

 彼女は自分に言い聞かせるようにそう言った。そうだ、茉純さんの言うとおりだ。

 華怜は生きている、必ず。……そしてきっと、いつかまた会える日が来るはずだ。

「……はい。俺もそう思います」

 俺がそう言うと、茉純さんは嬉しそうに微笑むのだった。

 もう少し話をしていたかったけど、茉純さんはすぐにまた訓練に参加しなければならないらしく、舞歌さんによろしく、とだけ言って持ち場に戻って行った。


 ビルを出ようとすると、フロントのモニターに、世界中で今現在起きているテロや襲撃事件のニュースが映し出される。

 複数の映像が、それぞれ違う事件現場の状況を伝えている。

(……Ouroborosだけじゃない……。この世界には、数えきれないほどの世界的な脅威が潜んでいる……)

 俺が足を止めてモニターを眺めていると、1つの映像が目に留まった。

 それを見た瞬間、俺の心臓はドクンと大きく脈打った。

「これって……まさか……!」

 そこに映っていたのは、あまりに見知った人物だった。俺は思わず息を呑む。

「父さ……いや……種吉秀……! どうして……!」

 そう。モニターに映っていたのは、俺の父さんであり、Ouroborosの幹部でもある種吉秀の姿だった。

 俺はしばらく映像を見ていたが、ふと我に返り、その場を後にする。

 驚いたのは種吉秀の姿に、ではない。……彼が映っていた映像の内容に、だ。


 ニュー東京の旗を掲げた部屋の中で、ニュー東京の首相である河南乱下(かなんらんげ)と笑顔で握手を交わしている秀の姿があった。

 "Ouroborosとニュー東京は、協力関係にある"……とでも言わんばかりに。

 テロップでは、「神の復活を望む組織と、ディストピア新興国家が同盟か——?」

 とあった。

 俺は背筋が凍るのを感じた。

 Ouroborosだけでも厄介だというのに、これからはニュー東京までも俺と母さんを狙ってくる可能性が高い。相手は武装した、秩序もモラルも失くした兵士たちだ。

 ……すぐにでも、対策を考えないと。

 これまで続けてきた能力と肉体の鍛錬だけじゃなく、もっと実用的な対策を……。

 そんなことを考えつつ、俺は岡山支部を後にしたのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ