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別荘

 冬休み初日。僕と姉さんは、明美のお父さんが運転する車に乗っていた。カーラジオから流れるノスタルジックな曲を耳にしながら、後部座席で仲良く話している姉さんと明美をバックミラーから眺めていた。




「助手席は不満かね。ハルト少年」




 運転している明美のお父さんが、ニヤニヤと笑みを零しながら僕に訊ねてきた。




「不満はありませんよ。ただちょっと疑問があるだけです。オジサンが運転する車の助手席に座るなら、普通は娘の明美じゃありませんか。確かに僕とオジサンは多少の仲ではありますが、肩を組めるくらい仲が良い訳じゃありません」




「私は全然肩組むよ?」




「いや、それはどうでもいいです」




「要するに、どうして家族で席を分けなかったのか気になってるのだろう。これはね、消去法ってやつさ。最初、ハルト君が言ったように助手席には明美を座らせるつもりだったんだ。ところが、明美は君と君のお姉さんが隣になる事を嫌に拒んでね。でも後ろに明美とハルト君を乗せたら、必然的に助手席には君のお姉さんが座る事になるだろ? 流石に初対面の子、しかも女の子を隣に乗せるだなんて気まずいじゃないか」




「だから僕が座る事になった、と」




「明美に土下座して頼んで、なんとか了承してもらったよ」




 その言葉に情けない様子が頭に思い浮かんだが、後部座席の二人の様子を見るに、明美のお父さんの判断は正しかったのだろう。女の子は女の子と、男は男同士でいるのが一番丸く収まる。




「そういえば、ハルト君のご両親は何処に旅行に行ったんだっけ?」




「何処だっけ? 分かんないですけど、冬の季節を感じられる場所だと思います」 




「まさか二人が冬休みに入る前日に旅行に行くなんてね。それもほぼ一ヶ月。こういうのは初めてじゃないんだっけ?」




「そうですね。僕の両親は春夏秋冬、季節毎に必ず長期旅行に行きます。最初は寂しかった覚えがありましたが、今となっては恒例行事としか」




「ハハハ……ま、まぁ、夫婦間の仲が良いのは、羨ましい限りだよ!」




「自慢は出来ませんけどね。で、いつものように冬休みをどう過ごそうか悩んでた時、二人から誘われたんです。驚きましたよ。まさかオジサンが別荘を持ってるなんて」




「まぁ、別荘と呼べる程、立派な家じゃないけど。でも、今向かってる場所は良い所だよ。特に今の季節、辺り一面が冬景色になって、冬を嫌になるくらいに堪能出来るんだ」




 その言葉通り、まだ目的地に辿り着いていないが、既に窓の外の景色は真っ白だ。僕が住んでる所も雪は降るが、ここまで積もる事は滅多にない。




 窓の外の雪景色を眺めながら、少し前に寄ったコンビニで買ったコーヒーを飲んだ。明美のお父さんが淹れてくれるコーヒーの味とは天と地の差があるが、この景色が合わされば同じくらいに美味しい。食べ物や飲み物を美味しくするなら、雰囲気や景色が大事なんだと思った。




 長いトンネルを通り、そこからしばらく進んだ先で民家が目につき始めた。どうやら目的地はすぐそこのようだ。民家ばかりで田舎と呼ばれる場所だが、静かで目に優しい場所だ。ここで一生を暮らすのは無理でも、旅行で泊まるのなら大歓迎だ。




 真っ白な森の中に入りかけた所に、比較的新し目な家があった。どうやらここが、明美のお父さんの別荘のようだ。家の前に車を停め、荷物を持って玄関に向かうと、家の中から一人の老人が出てきた。




「あー、今お越しになられましたか! ちょうど良かった。さっきようやく家の周りの雪かきが終わったんですよ」




「毎年ご苦労かけてすみません」




「いやいや、良いんですよ。民宿をやってた時から、こうした作業が好きでしたから。自分が綺麗にした場所にお客さんが訪れて、快適に過ごす。老いてもこの幸せを感じられるのが、嬉しいんですよ」




「昔から変わりませんね、山村さんは。良かったら、これから家の中で一緒にお茶でもしませんか? 美味しいコーヒー、作ってあげますよ!」




「いいや、遠慮しておくよ。君のコーヒーの味は、よく知ってるからね」




 山村と呼ばれる老人は笑顔を浮かべつつ、逃げるように去っていった。




「知り合いなんですか?」




「昔、あの人が経営する民宿によく泊まってたんだ。その内に仲良くなって、民宿が閉まった後、偶然ここでまた再会したんだ。私達は冬の時しかここに居ないから、それまで定期的に管理してもらってる。もちろん、ちゃんと報酬は出してるよ。親しき仲にも礼儀あり、だからね」




 僕は改めて、明美のお父さんが謎の多い人物だと思った。知らないだけで、もしかしたら凄い大金持ちで人脈が広い人なのかもしれない。 




「さぁ! まずは荷物を家に運ぼう! ようこそ私達の別荘へ!」 




 明美のお父さんはテーマパークの案内人のように、オーバーなリアクションで僕達を歓迎した。僕と姉さんはおろか、実の娘である明美も特に反応を示さず、黙々と荷物を家の中に運んでいった。

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