姉にからかわれてます
夏休みが終わり、二学期が始まった。今年の九月は暑いままで、来月の十月まで夏服着用を許されている。クラスメイトはみんな肌が焼けていて、男女問わず、真っ白な肌をしているのは僕だけだ。夏休み中、引き籠ってばかりだと馬鹿にされそうだが、幸いにも僕に話しかけてくる物好きはいない。
唯一いるとすれば、明美だけなのだが、彼女は僕と目が合いそうになるとソッポ向くようになっていた。 いつの間にか嫌われたようだ。人気者の彼女と端っこの僕が会話していたのが奇跡だったのだろう。僕は元の孤立状態に戻ったわけだ。
ただ、一つ気掛かりな事がある。たまに数人の男子生徒が集まって、僕の方に視線を向けたままコソコソと内緒話をしているのを見かけた。会話の内容は分からないが、陰口というには、表情に下心が浮き出ていた。まさか男の僕を狙ってるわけがないよな?
少しだけ変化が起きた学校生活だが、気にする程の変化はなく、夏休み前と同じ学校生活を送っていた。
そんな風に学校生活に関しては大きな変化がなかったが、それとは別で大きく変化した事もある。良い変化か悪い変化かといわれると、悪い変化だ。
「……またか」
メッセージの通知に、携帯を開いた。届いたメッセージを確認すると、送り主は姉さんからであり、画像が一枚送られていた。知らない女子と男子に囲まれながら、中央で微笑を浮かべる姉さん。女子はともかく、右上の男子がやけに姉さんに近い。コイツ、姉さんを狙ってるつもりか。
【クラスメイトと写真を撮りました】
そんな一言が姉さんから送られてきたが、僕はあえて返信しなかった。今の僕が返信する文には、嫉妬と憎しみが込められてしまう。おそらく姉さんの狙いはそういう僕の反応で、写真を送ってきたのは僕をからかって遊ぶ為だ。別に誘いに乗ってやってもいいが、なんだか負けた気がするから嫌だ。
【右上の彼、最近凄く積極的なんだよ】
「は?」
もう負けでもいい。今すぐにコイツの情報を聞き出して、今日中にでも姉さんの傍に近寄れない風にしてやる。
【そいつ、誰?】
【知らない。悪趣味な香水をつけてる事くらいしか特徴が無い】
【遊びに誘われてないよね?】
【誘われてら、どうする?】
「駄目だろ!!! それは!!!」
教室を飛び出し、玄関へと向かった。まだ午前授業が残っているが、そんなのは後回しだ。高校三年にもなって、色恋に現を抜かす馬鹿な男をぶん殴りに行くのが最優先事項だ。
外靴に履き替えた瞬間、携帯に通話の着信が入った。掛けてきたのは、姉さんだった。
「もしもし姉さん! 何もされてないよね!?」
『アンタさ、私の学校に殴り込みに行こうとしてるでしょ?』
「もちろん!」
『はぁ……アンタね、そろそろ学習なさい。今に始まった事じゃないでしょ、アンタをからかう悪戯は。学校に、しかも高校に殴り込みに行こうだなんて、昭和のヤンキーじゃないんだから』
「ご、ごめん……いや、だったらやめてよ! 僕をからかう為に写真送ってくるのは!」
『だって楽しいんだもの。アンタの心を弄ぶのが』
「あ、悪趣味だ……」
『あら? 私の事、嫌いになった?』
「そんなわけないじゃん。姉さんが好きだから、こんなに必死になるのさ」
『ふ~ん。約束守れてるじゃん。偉い偉い』
こんな感じで、夏休み明けから姉さんに翻弄されている。口では約束を守れているかを確かめる為と姉さんは言うけど、流石にやり過ぎだ。この通話に気付かずに、姉さんの学校に突撃した時の事を考えているのだろうか。
『あ、授業始まる。じゃあ切るね。また写真送ってあげるから』
「やめてね? それじゃ、勉強頑張ってね。姉さん」
『アンタが言うの? じゃあね、ハルト』
通話を切り、とりあえず靴を履き替えた。とんだ悪女に僕は惚れたものだ。こんな日々がずっと続くかと思うと身が持たない。
「ハ、ハルト君……!」
教室に戻ろうとした矢先、明美が息を切らせながらやってきた。
「急にどうしちゃったの? 大声で教室飛び出したりして」
「なんでもないよ。発作みたいなもの。たまに大声を出して教室を飛び出したくなるんだ」
「それは……大変、だね?」
「ハハ……はぁ、本当にね……」
明美の横を通り過ぎ、二階の教室へ向かった。後ろから聴こえる明美の足音が慌ただしくない事から察するに、まだ授業開始まで余裕があるのだろう。
それにしても、明美は何故僕の後を追って来たんだ?
「……ハルト君」
「なに?」
「ハルト君はお姉さんが……好きなの?」
明美のその言葉に僕は足を止め、振り返った。
その瞬間、授業開始のチャイムが鳴り響いた。




