次の目的地
「…!」
ケントの言葉に思わず身構えた。…いや、本当の事を言うと、私も正直そうなんじゃないかとは少し思っていた。
けどそこまで行くとさすがに非現実的過ぎるし、何よりも根拠となる要素が少ない。これだけで今回の一件とアラクの一件が繋がっていると判断するのは浅はか過ぎる。
「私もちょっとそう思ったけど…。でも、そんな非現実的な事…」
そうだ。アラクを出て、これまで想定外で非現実的な事を見てきたけれど、こんな陰謀めいた事はさすがに信じ難い。手の平に乗った赤い宝石を見つめながら、そう呟く。
「…メリッサ。アラク出身の君からしたら、こんな事は正直非現実的だとか、陰謀めいてるって、そう思うかもしれない。
でもここは、外の世界は、非現実的な事や、理屈で説明できない事が当たり前のように起こってるんだ」
「っ…!」
私を見つめながらそう語るケントの表情には、この外の世界の不思議さと美しさ、そしてそれと背中合わせに存在する残酷さを改めて実感させられた。
そうだ。この外の世界は、不思議で美しくて、残酷で非現実的で、時に死んだ方がマシなのではないかと思う程の困難が存在している世界だ。
今目の前で起こった出来事も、その一つなのだと、私は今更ながら納得した。
「…うん。そうだよね。非現実的だとか言って、ちゃんと向き合わなくてごめん」
「…ま、こんな事、俺も初めて見るような奇妙な出来事だけどな」
アデルがやんわりと私をフォローする。
「うん。…というかさ、さっきからこの宝石、何か光みたいなのを発してない?」
えっと思ってアデルと宝石を改めてみると、細いレーザービームみたいな赤い光が、ここから北の方を指していた。
試しにその場で身体の向きを変えてみたりするが、変わらず北を向き続けている。
「な、何、これ…」
私の動きと関係なく北に光を発し続ける宝石に困惑していると、アデルが何か閃いたように口を開いた。
「ロレーヌだ」
「へっ?」
初めて聞く場所の名前(?)に何それ?と反応したその瞬間、私の手に平に乗っていた宝石は突然パリンッと割れて、そのまま跡形もなく消えた。
「えっ…!な、何もしてないのに…」
けれども私の関心は、アデルが口にした場所の名前の方に集中していた。
「アデル、ロレーヌって?」
「ライプチヒの北にある国家だよ。丁度、さっきの光が指し示した方向にある。…とりあえず、そこに行ってみたら何か分かるんじゃねぇか?」
「…そうだね。情報は多い方が判断の選択肢は広がる」
…なるほど。ここに長々と居続けても何も分からない。とりあえず行ってみるのが確かに良いかもしれない。
…ロレーヌ。頭の中で何度か復唱する。この国でも、私の知らない事や想像を上回るような事が待っているのだろうか。




