表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第2章 精霊国家・ライプチヒ
93/215

アデルの意思

 「アデル…!?さっきまで気絶してたのに、もう動いて大丈夫なの!?」

 「ああ。まだ頭の中はガンガン鳴ってっけど…こうやって会話できるんだ。問題ねぇよ」

 そう語るアデルの姿をもう一度確認する。

 さっきアリウムの雷の攻撃を食らった関係で、服も肌も傷だらけだし、腕には若干火傷のようなものも見える。

 見るからに痛々しいが、さっきの攻撃を食らってこんな風に生きているだけでも、途轍もない幸運だったとも捉えられる。

 メンタル面もそうだが、フィジカル面でもタフな子だなと思った。


 「…で。さっきの俺が全部変えるっていうのはどういう事だ?」

 私達の会話にアリウムが入ってきた。どうやらさっきの言葉の意味を余程知りたいらしい。

 アリウムの問いを聞くとアデルはアリウムの方を向き、真剣な顔でこう言った。


 「精霊の力を持つ者も持たない者も、両方の奴らが幸せに生きられる国を、俺が作ってやるよ」

 えっ、と思わず声が出た。何せ、想定外の解答だったからだ。

 確かに、そんな国を作れば誰も悲しい思いなんてしない。

 けど、そんな簡単にそんな事が出来るの?


 「いや…。それはそうだが、そんな簡単に出来るのか…」

 どうやら、アリウムも私と同じ事を思っていたらしい。

 「…ヴァイゼ学長は亡くなって、国家精霊部隊も隊員が今回の件で大勢亡くなってる。国の主要機関のトップや重要人物が次々と亡くなって、国は一度体制を立て直す必要があるだろ。



 だから俺が…一部の人達ばかりが辛い思いをしないように、少数派マイノリティの俺がトップになって、少数派マイノリティの奴にも、多数派マジョリティの誰にも苦しい思いなんてさせねぇよ」

 「…口では簡単に言うが…できるのか」

 「できる」

 アデルが自信に溢れた口調で返す。

 アデルの表情を確認すると、その目には一才の迷いも不安もなく、あるのはただ、「自分が変えられるのだという自信」しかなかった。

 普通なら笑いそうな回答だが、アデルの答えには笑わなかった。何せ、本当に出来てしまいそうな、根拠の無い自信があった。

 

 …アデル。この子はきっと、人や精霊を惹きつける不思議な魅力やカリスマがあるんだろう。


 アデルの宣言に目を見開くと、アリウムはふっと笑った。  

 「根拠もないのにそんな事を堂々と宣言するなんて…お前はやっぱりよく分からんな」

 「根拠がないからってやっちゃ駄目なのか。根拠がなかったら成功しないって事か?」

 アデルからの反論にははっと笑うと、アリウムはアデルを真剣な目で見た。


 「お前がこの国を変えるのかは分からない。でも、この国を変えるのは、お前のようなぶっ飛んだ奴だけだ。




 後は頼んだぞ」

 アデルは黙って頷いた。


 「あ、あとさ」

 「何だ…まだあるのか」

 「お前にイカれてるとか…独善とか言って悪かった。俺は精霊が…精霊の力を持っていた事が理由で…親を殺されてるんだよ」

 その言葉を聞いて、アリウムは驚きの表情を浮かべ、アデルは自分の生い立ちを全てアリウムに伝えた。


 「…だから俺は…精霊の力がなかったら、親は殺されなかったかもしれないって、そう思うんだよ」

 「…そうか…。なら、ほとんど俺が勘違いしていたようなものだったんだな…。俺こそすまない…」

 

 …不思議なものだと思った。

 精霊の力を持つ者が精霊の力を持たない者を羨ましいと感じたり、精霊の力を持たない者が精霊の力を待つ者を羨ましいと感じたり。

 この2人はきっと、どこかで道を間違えただけで、本当は理解し合えたはずの2人なんだ。


 だって、こんなに優しくて誰かを想う心を持った2人なんだから。

 

 もうこんな悲しいすれ違いが起きないで欲しいと、私は心から願った。


 「それと…メリッサと言ったか」

 「…へっ?」

 まさかここでも話し掛けられるとは思っておらず、ワンテンポ反応に遅れる。


 「お前の相手関係なく突き進む姿は、必ず周囲に影響を与え続ける。強く生きろ」

 そう言うとアリウムは僅かな意識を手放し、その場に倒れた。


 まさか最後に、私にもこんな言葉をかけるとは思いもしなかった。

 国の勝手な事情に振り回されて亡くなった人達の無念を、無駄にしてはいけない。

 アリウムの言葉を胸に刻んだその時だった。









 アリウムの身体が、頭からどんどん灰になっていき、そのままアリウムの身体は跡形も無く消えたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ