アデルの意思
「アデル…!?さっきまで気絶してたのに、もう動いて大丈夫なの!?」
「ああ。まだ頭の中はガンガン鳴ってっけど…こうやって会話できるんだ。問題ねぇよ」
そう語るアデルの姿をもう一度確認する。
さっきアリウムの雷の攻撃を食らった関係で、服も肌も傷だらけだし、腕には若干火傷のようなものも見える。
見るからに痛々しいが、さっきの攻撃を食らってこんな風に生きているだけでも、途轍もない幸運だったとも捉えられる。
メンタル面もそうだが、フィジカル面でもタフな子だなと思った。
「…で。さっきの俺が全部変えるっていうのはどういう事だ?」
私達の会話にアリウムが入ってきた。どうやらさっきの言葉の意味を余程知りたいらしい。
アリウムの問いを聞くとアデルはアリウムの方を向き、真剣な顔でこう言った。
「精霊の力を持つ者も持たない者も、両方の奴らが幸せに生きられる国を、俺が作ってやるよ」
えっ、と思わず声が出た。何せ、想定外の解答だったからだ。
確かに、そんな国を作れば誰も悲しい思いなんてしない。
けど、そんな簡単にそんな事が出来るの?
「いや…。それはそうだが、そんな簡単に出来るのか…」
どうやら、アリウムも私と同じ事を思っていたらしい。
「…ヴァイゼ学長は亡くなって、国家精霊部隊も隊員が今回の件で大勢亡くなってる。国の主要機関のトップや重要人物が次々と亡くなって、国は一度体制を立て直す必要があるだろ。
だから俺が…一部の人達ばかりが辛い思いをしないように、少数派の俺がトップになって、少数派の奴にも、多数派の誰にも苦しい思いなんてさせねぇよ」
「…口では簡単に言うが…できるのか」
「できる」
アデルが自信に溢れた口調で返す。
アデルの表情を確認すると、その目には一才の迷いも不安もなく、あるのはただ、「自分が変えられるのだという自信」しかなかった。
普通なら笑いそうな回答だが、アデルの答えには笑わなかった。何せ、本当に出来てしまいそうな、根拠の無い自信があった。
…アデル。この子はきっと、人や精霊を惹きつける不思議な魅力やカリスマがあるんだろう。
アデルの宣言に目を見開くと、アリウムはふっと笑った。
「根拠もないのにそんな事を堂々と宣言するなんて…お前はやっぱりよく分からんな」
「根拠がないからってやっちゃ駄目なのか。根拠がなかったら成功しないって事か?」
アデルからの反論にははっと笑うと、アリウムはアデルを真剣な目で見た。
「お前がこの国を変えるのかは分からない。でも、この国を変えるのは、お前のようなぶっ飛んだ奴だけだ。
後は頼んだぞ」
アデルは黙って頷いた。
「あ、あとさ」
「何だ…まだあるのか」
「お前にイカれてるとか…独善とか言って悪かった。俺は精霊が…精霊の力を持っていた事が理由で…親を殺されてるんだよ」
その言葉を聞いて、アリウムは驚きの表情を浮かべ、アデルは自分の生い立ちを全てアリウムに伝えた。
「…だから俺は…精霊の力がなかったら、親は殺されなかったかもしれないって、そう思うんだよ」
「…そうか…。なら、ほとんど俺が勘違いしていたようなものだったんだな…。俺こそすまない…」
…不思議なものだと思った。
精霊の力を持つ者が精霊の力を持たない者を羨ましいと感じたり、精霊の力を持たない者が精霊の力を待つ者を羨ましいと感じたり。
この2人はきっと、どこかで道を間違えただけで、本当は理解し合えたはずの2人なんだ。
だって、こんなに優しくて誰かを想う心を持った2人なんだから。
もうこんな悲しいすれ違いが起きないで欲しいと、私は心から願った。
「それと…メリッサと言ったか」
「…へっ?」
まさかここでも話し掛けられるとは思っておらず、ワンテンポ反応に遅れる。
「お前の相手関係なく突き進む姿は、必ず周囲に影響を与え続ける。強く生きろ」
そう言うとアリウムは僅かな意識を手放し、その場に倒れた。
まさか最後に、私にもこんな言葉をかけるとは思いもしなかった。
国の勝手な事情に振り回されて亡くなった人達の無念を、無駄にしてはいけない。
アリウムの言葉を胸に刻んだその時だった。
アリウムの身体が、頭からどんどん灰になっていき、そのままアリウムの身体は跡形も無く消えたのである。




