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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第2章 精霊国家・ライプチヒ
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分かった気でいるな Side:アリウム

 その後俺とアデルは、国家精霊部隊のスカウトを受け、俺は学院を次席で卒業した。

 当然俺は入隊する。理由はさっきの理由の他にも、もう一つあった。


 卒業式の日。俺はある場所へと向かっていた。

 目的の部屋へ着き、コンコンとノックをして中にいる人の許可を取ると、部屋へと入る。

 「おお。お主は…アリウム・エアハルトか。一体とうしたのじゃ?」

 俺の目的の人物…ヴァイゼ学長が、いつもの穏やかな態度で俺を出迎える。


 「卒業式は大丈夫なのか?わしは今日はちと体調が優れんから、皆に伝えたい事は手紙にして、副学長に渡しておるんじゃが…」

 「俺は次席なので、特に呼ばれたり出番はありませんよ。それにこんなマンモス校、1人抜けるくらいじゃ気付かれないし、出番があるのなんて…せいぜい首席のアデルくらいでしょう」

 アデルはあの後も天才的な才能を発揮し続け、2年が終わる頃にはこの学院の全課程を終わらせたらしく、飛び級で卒業する事になった。それも主席で。


 「ふぉっふぉっふぉっ。アデルはこの学院に入ってから、周りが休む余裕を与えておらんな」

 「そうですね」

 俺はそう言うと、袖からあるものをこっそり取り出し、腕を後ろに組んで隠す。

 鋭い刃を持ったタガーだ。

 

 俺の最初が行うのは、ヴァイゼ学長。この国の全ての精霊使い達の象徴を殺す事だった、

 この人を殺せば各方面に多大な影響が出るのは間違いないし、何よりこの人は強力な精霊使いだか、もう80を超える老齢だ。精霊ではなく、力技に持っていけば間違いなく勝てる。

 雑談で気を取らせて、その隙を狙う。それが学長の殺害計画だった。


 「ヴァイゼ学ちょ」

 「血反吐を吐く鍛錬の日々は辛くはなかったか?



 


 精霊の力を持たない者よ」


 はっ?と間抜けな声が出た。

 この人は一体何を言ってるんだ?いや違う、どうして気付かれた?

 そんな事は誰にも一言も言ってないし、それがバレないような振る舞いも徹底した。

 他の教師達や生徒にも気付かれなかったのに、どうやって?

 様々な思いがぐるぐると頭の中を回っていると、学長は悲しそうな表情で俺を見てきた。


 「いや…辛くなかったはずがないのに、そんな事を聞くのは愚問だ。すまなかったな」

 「な、何で…一体どうやって…」

 「いくつかあるが、何よりも…。




 精霊の力を使っている時のお主は、とても辛そうな、そんな風に見えたんじゃよ」

 

 …俺ですら気付かなかった気持ちを、どうしてこの人は見抜いたんだ。この僅かな指摘に、俺の心は大きく揺さぶられた。

 「どんな方法で手に入れたのかは分からないが…。精霊の力は、簡単に手に入るものではない。本当に恐らくだが…あいつの力を」

 「分かったような…




 分かったようなふりをするなぁーーー!!!」

 俺はそう叫びながら、後ろに隠していたタガーで学長の腹を思いっきり刺した。

 ぶつりと肉が鳴る不気味な音がして、一瞬心臓が跳ね上がる。

 学長は傷口を押さえて冷や汗をかきながら蹲った。

 

 「俺の苦しみも悲しみも、痛みも知らない、分かったようなつもりでいるだけの奴に、分かったようなふりをされる筋合いはない!俺は!俺は…」

 「すまなかった」


 またしてもはっ?と間抜けな声が出た。どうしてこの人が謝るんだ?

 「精霊の力を持つ自分達が…精霊の力を持たない者を差別して、迫害して、傷付けて…。そんな状況、あってはならないのに、他でもない自分達が最も向き合わないといけないのに…お主の心も、人生も傷付けてしまって…本当に…」

 学長の目には涙が流れていた。


 「でも…でもな…」

 呼吸を苦しくしながら、言葉を続ける。

 「あの者が…アデルが…。きっとこんな状況を変えてくれる。そうしたら…精霊の力を持つ者も持たない者も、いつかは…」

 そう言うと学長はうつ伏せに倒れた。

 確認すると、息はなかった。死んだのだと確信した。



 アデルがこの状況を変える?あの、自分の才能を過信しているだけの、偽りの天才が?

 そう思いながら学長の死体を見つめていると、窓辺りから低い声が聞こえてきた。

 

 「おいあんた…。何やってんだよ…。その人は学長だぞ…。そんで…殺したのか…?」

 声の主を確認すると、声の主はアデルだった。

 表情の感じやペンダントをしていない姿からして恐らく…国家精霊部隊への入隊を拒否し、追っ手から逃れてここへ来たのだろう。

 そして俺はアデルを見て言った。



 「精霊は、人間に跪きながら生きていくものなんだよ。だから…精霊と人間は助け合って生きていくなんて考えを持った人間は…必要ない…。


 それが学長だろうと、2000年に1人の天才だろうと」


 

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