自分とは正反対の天才 Side:アリウム
アデル・フォン・ヘルトリング。
ヘルトリング侯爵家の御曹司で、今年から入学した1年。
一見するとあどけなさの残る整った顔立ちの少年だが、その教師すら上回る圧倒的な精霊の力で、すぐに学院の注目を集める存在になり、その噂は基本そういった話に興味のない俺の耳にも入ってきた。
何でも、あの時は炎の精霊の力を使用していたが、他にも雷、木の精霊の、3つの属性の力を使えるらしい。
複数の精霊の力を持つだけでも相当な希少性があるのに、それに加えて全ての属性で圧倒的な精霊力と共鳴度、精霊術のセンス、ずば抜けた頭脳を持ち、学院の間では「2000年に1人の天才」「精霊の申し子」と呼ばれていた。
その時点なら俺は特に気にしなかったのだが、俺がこのアデルという少年に複雑な思いを抱くようになったのは、彼の振る舞いだった。
彼はまず、おかしいと思う事があれば相手が教師だろうと生徒だろうと口論になるようなタイプだった。
他にも、口も素行も悪く、教師の話を平気で無視する時もあり、比較的模範的なタイプの優等生だった俺には考えられないような行動が目立っていた。
そんな振る舞いから教師や生徒にもかなり嫌われていて、類稀な才能を持ちながら、どうしてそんな行いをするのかと疑問に思っていた。
それでもアデルは…そんなくだらない嫉妬も妬みも疑問も、全て一蹴してしまう才能と実力を持っていた。
いくら悪口や陰口を言おうが、いくら嫌がらせをしようが、いくら媚を売ろうが、それらをすべて飲み込んでしまうかのような、もはや神の領域と言ってしまっても良い精霊の力と、素行は最悪だが真っ直ぐでどこまでもぶれず自信のある姿は、良くも悪くも人を惹きつけてやまなかった。
そんなアデルの姿を見て、これくらいの実力があれば、母親を亡くさずに済んだのか、と思ってしまい、胸が剣を刺されたように痛くなる。
そんなアデルに複雑な思いを抱いていた時、その複雑な思いが明確に憎しみと殺意に変わる、とある出来事が起こった。
卒業も目前に控えたある日、学内を歩いているとどこかから声が聞こえてきた。
一体誰だろうと、その声がする方へ行くと、そこでは学長とアデルが話していた。
最近、アデルが学長と親しいという噂は聞いている。
良くないとは思ったが、どんな会話をしているのか気になってる盗み聞きをする事にした。
「_だから俺さ、思うんだよ。精霊の力を持っていなかったら…もっとマシな人生を歩めてたんじゃないかって」
…精霊の力を持っていなかったら、マシな人生を送れていた?
その言葉に、全身の体温がぶわっと上がって、心拍数も上昇する。
…ふざけるな。
自分が精霊の力を持っていなかった事が理由で母親を見殺しにされて、そんな父親は自分を見捨てたかと思えば俺が精霊の力を手に入れた途端、それを自慢に好き勝手に生きている。…かつて自分が殺した母親の事も忘れて!
そんな人生が、精霊の力を持つ者よりマシだっていうのか!それも、生まれながらの天才である、お前が言うのか!
生まれながらに恵まれた人間というのは、生まれながらに恵まれない人間の気持ちを本当に理解出来ないし、分かり合えないのだと、この言葉で強烈に理解した。
俺は2人に気付かれないようそっとその場を離れ、寮へと戻ると決意した。
いつか自分が、精霊の力を持つ者も持たない者も、全て恐怖で支配して、この国もいつかは支配する。
そして_
アデル・フォン・ヘルトリング。
こいつだけは俺が殺すと。




