母親 Side:アリウム
…そうだ。俺は唯一の家族を、たったひとりの肉親だった、母さんを亡くしたんだ。
俺はライプチヒの首都・フランクで生まれた。
父親は国家精霊部隊の総帥で、母親のハンナは精霊の力は持たないが、純粋で心優しく、何より老若男女問わず見る人を魅了する美しい容貌の持ち主だった。
強力な精霊の力を持っていた俺の父親は、お手本と言って良いレベルの精霊至上主義者だったらしく、精霊の力を持つ者は、精霊の力を持たない者をどんな風に扱っても良い、何をしても許されるという考えの持ち主だった。
幼い頃から精霊の力を理由に好き勝手に振舞ってきたらしく、精霊の力を持たない者を自らの鍛錬の練習台にしたり、本人の許可なく強姦したりといった非道な行いを繰り返してきた。
そんな非道な行いを繰り返しながらも、強力な精霊の力を持っていた父親は、国家精霊部隊の総帥に就任したその年に、とある出会いをした。
それが俺の母親の…ハンナだった。
ハンナはライプチヒの小さな村の村娘で、透き通るような白い肌に朝の光を束ねたような美しい髪、何より、老若男女問わず、見る人全てを魅了する美しい顔立ちをしていた。
それだけでも十分人を惹きつける要素になるのに、天真爛漫で明るく、純粋で心優しい人柄は、村の天使と言って良い存在だったらしい。
当時、母親は村の幼馴染と結婚予定で、村人達にも祝福され、幸せの最高潮にいた。
…俺の父親と出会うまでは。
たまたま村を訪れる機会のあった父親は、俺の母親を一目で気に入り、交際もすっ飛ばしていきなり妻になるよう強要した。
それだけでも最低な行いなのに、母親は幼馴染の婚約者もいたし、当時20歳の母親が当時56歳の初老のよく知らない男と結婚するなんて、さすがの母親でも受け入れられなかった。
母親はその求婚を断ったが、それが父親のプライドを傷付けたらしく、逆切れした父親は、国家精霊部隊に指示を出し、母親の故郷の村を焼き払い、婚約者に至っては母親の目の前で殺害したらしい。
この出来事で故郷も家族も友人も婚約者も全て失い、帰る所をなくした母親は、父親と結婚する他なかった。
そうして非道極まりない行いを経て生まれたのが…俺だった。




