先入観を捨てる
「メリッサー!」
「え…ケント…?」
こんな状況で、私に一体何なんだ。正直今はこんな状態だし、話し掛けて欲しくなかった。
「メリッサ、今自分は精霊使いに勝てない、とか思ってるでしょ」
「え。」
ストレートな物言いに動揺する。
でも、ほとんど合っていた。さっきの強力すぎる攻撃を食らって、次下手したら戦闘不能になってもおかしくない緊迫した状況で、心の片隅でそう思ってしまっていた。
「確かに精霊の力は強力だよ。でもその考えだと、あいつの思うがままだし、あいつの言ってる事が事実になる。
固定観念とか先入観に囚われるんじゃなくて、目の前の攻撃をよく見極めるんだ。恐怖心や抵抗も捨てて、自分のイメージする事をとにかくやってみればいい」
…目の前の攻撃をよく見極める。同じ事を、剣術の先生も過去に教えてくれた。
さっき、アリウムの攻撃と私の攻撃がぶつかり合った時、私の刀は破損したりする事はなかった。
地下街で様々な偶然が重なって手に入れた刀だけど、これは結構良い刀なんだろう。
…とすれば。いけるかもしれない。
刀を構え直し、目を閉じ、呼吸と心拍数を整える。
「…一体何を考えているのかは知らないが、これで終わりだ」
アリウムは杖に雷の力を集める。
「死ね」
そう言い放って杖から雷を放ち_
「…!」
私はそれを、刀で斬り込んだ。刀からは攻撃を防いだ影響による煙が出ている。
「なっ…!?」
自分の攻撃を防がれて、アリウムは明らかに動揺していた。
「っ…!ただのまぐれだろう!」
そう言いながら再び攻撃を連発するが、全て私が防いでしまって、一度も命中しなかった。
「クソッ!精霊の力を持たない者がっ!精霊使いに勝つなんてっ…」
攻撃を放ちながらそう言いかけた瞬間、アリウムは気付いた。
動揺して攻撃に集中しすぎたせいで、メリッサの姿を見失ったのである。
どこへ行った!?目の前にはいないし、視界にも確認出来ない。
すると後ろから、先程と同じ鳥肌が立つ気配を感じて_
「(後ろかっ!?)」
「はぁ!!!」
慌てて振り向いたその瞬間、真正面からメリッサの渾身の斬撃を食らってしまった。
「ぐはっ…!?」
傷口からは大量の血が飛び出し、アリウムは膝をつく。傷が深かったのか、吐血も同時にしてしまう。
壇上に血の溜まりができ、この状態では戦いを続行するのは不可能だろう。
そして…メリッサがアリウムに、精霊の力を持たない少女が、精霊使いに勝利した事も意味していた。
刀に付着した血を振り払いながら、メリッサがアリウムに呼びかける。
「…もう戦えないでしょ」
「すごいねぇ。メリッサ。お疲れ様」
ケントが壇上に登ってきて、私に労いの言葉をかける。
「ケントの助言があったからだよ。あれがなかったら私、自信喪失して負けてたかも」
「いやいや。あのアドバイスだけであそこまで出来る奴はなかなかいないよ。身体能力と剣術の素質が本当に高い。やっぱりメリッサ、白兵戦だけなら俺より強いんじゃない?」
「…。」
こんな状況でよくそんないつものテンションをキープできるな…。我が仲間ながら、こういった所にはいつまでも慣れない。
「…なぜだ」
膝をつきながら俯いていたアリウムがぎりぎり聞き取れるくらいの小さな声で呟く。
「…精霊の力を強引に手に入れて、血反吐を吐く思いで鍛錬を続けても、負けてしまうのか…。
それも、かつて自分がそうだった、精霊の力を持たない者に…!」
「「……」」
アリウムの嘆きを、ケントと2人で静かに耳を傾ける。
…どうやら、元々精霊の力を持っていなかったというアデルの考察は当たっていたらしい。
「…どうしてそんなに、精霊の力に固執するの?」
そうだ。精霊の力がなくても、生きていく事も、幸せになる事も可能なのに、どうしてそこまで異常な執着を見せるのか。
さっきまでは冷酷な敵だと思っていたけれど、この弱った姿を見て、少し話を聞いてみたい、この人を知りたいと思った。
「…俺は…。精霊の力を持っていなかった事が理由で…母親を亡くしたんだ…」




