敵との対面
城の扉を開け、中へ入るとそこには蝋燭や赤い絨毯のような、城を思わせる調度品は一切なくて、むしろそこには何十…いや、何百個あるのか分からない木製の長椅子の数々に、赤いカーテンが左右両サイドにあるステージ、そして、カーテンが開いていない関係で光が一切ない2階…と、私の学校にもある、講堂に近い場所だった。
講堂に近い場所ではあるけど、一部にしか光が届いていなくて、周囲が全く見えない。
「アデル、ここって…」
「ここはこの学院の講堂だよ。主に教師達が公演をしたり、入学式や卒業式の時なんかに使ったりする場所だ」
…へぇ、この国の学校にも、講堂があるんだな。
アデルとケントの後ろで辺りをとりあえず見渡していると、ステージの方から妙な気配を感じて、右側に3歩ほど避けた。
すると避けたとほぼ同時に、青白い閃光が私の隣を通り過ぎ、丁度その閃光を挟む位置に立っていたアデルとケントは、一瞬動揺した後、バッと後ろを向いて私の安否を確認する。
「メリッサ!…は、無事か…。良かった…」
「あぁ。にしても、よく攻撃が来るなんて分かったね」
アデルはほっとした表情で私を見つめ、ケントは関心しつつも、「避けられるって分かってたよ」というような表情で私を見ている。
「う、うん何とか…。でも誰が」
「精霊の力を持たない奴を心配するなんて、2000年に1人の天才も落ちぶれたものだな」
ステージの方から低く威圧感のある声がして、思わず前方を見ると、そこには黒いセンター分けのロングヘアーに、黒い軍服を着た男性が立っていた。
一見すると端正な顔立ちと雰囲気の美男子だったが、赤い瞳と感情の無い表情、そして、突然攻撃を放ってくるような容赦のなさと、根拠はないが、どこかに深い闇を感じさせる立ち振る舞いに、全身の鳥肌が立つのを感じた。
「…いきなり何しやがんだよ…。
国家精霊部隊総帥、アリウム・エアハルト」
…え!この人が精霊部隊の総帥!しかも、アデルと知り合い?
様々な情報が一気に入ってきて、脳内が既に破裂しそうだった。
「この国は精霊至上主義だ。精霊の力を扱える者が最も強く、賢く、地位が高い。だから精霊の力を扱えない者は全て、排除してしまえば良い。
それにその女…。理由は分からないが、酷く不快だ。見ていると何故か殺意を感じる」
…心臓が大きく跳ね上がった。…この人、私を本気で殺そうとしてたんだ。
…あと、根拠も無いのに殺意を感じるって、理不尽なんて言葉じゃ済まない。
「…この国がっつーか、お前が誰よりも精霊至上主義だな。てか、この短期間で総帥の位まで上り詰めたのか?そんな話あるのか」
「この国で最も地位が低いのは、精霊の力を持たない者だ。気まぐれで殺そうが、実験台にしようが、性処理の道具にしようと、それが精霊の力を持つ者であれば、一切の罪にはならない」
「…話途中で遮るわ、極論を押し付けるわ、お前が総帥って、この国大丈夫か」
「だが、それ以上に価値のない者がいる。それは_
精霊の力を持ちながら、精霊の力を持たない者と関わりを待つ者だ」
そう言った瞬間、2階のカーテンが一斉に開かれて、全方向から光が一気に差し込む。
眩しさで顔を顰めると、それと同時に黒い軍服のようなものを着た、何十人もの人達が2階に立っていた。
次の瞬間に2階から一気に飛び降りて来て、私達を下品な笑いを浮かべながら見つめる。
「!?」
「あー…。囲まれちゃったねー…」
「この場で最も価値がないのは、稀な才能を持ちながらこの国に反抗したアデル。貴様と…
さっきから飄々と振る舞っているが、水の精霊の力を持つ金髪。お前だ」
アデルとケントを指差しながら、アリウムが言う。
アリウムの指摘に、ケントの顔が冷ややかになる。
「お前達3人は、この国では生きる価値がない。
アデルは私がやるが…あとの2人はお前達で好きにしろ」
アリウムがそう言った途端、軍服の1人が突然何かを放ってきて、ケントと2人で避けると、そこには私の身長半分くらいの氷の山ができていた。
「クヘヘ…さあ死ねー!」
「メリッサ。相手は完全に俺達を弱いと認識してる。だからそれを上回る動きをすれば良い」
そう言うとケントは集団に走って行った。
このままあれを放置したら、アデルやケントにも危害が及ぶ。
そんな事はさせまい、そして、こんな所で死ぬかと鞘から刀を抜き、私も走り出した。




