…帰ってきた?
「…へ?帰ってきた、って…」
「アデルのエセ両親の事でしょ。でも何で?旅行に行ってるんじゃなかったんですか?」
私のやたらと鈍い思考に、ケントが誰の事を指しているのか教える。
「な、何でも旅行に飽きられたとかで…。それと、どこからかアデルお坊ちゃまが帰られたという話を聞いて『また金持ちになれる!』なんて上機嫌球いられるらしくて…」
メイドさんが全力で走った関係で、息を切らしながら私達に伝える。
…いや。どれだけおめでたい思考なんだ。
ここまで来ると一周回って尊敬の域に到達してしまう。
自分達が自分達の手で切り捨てた子を、また取り戻せると思ってるなんて。
そんなアデルのエセ両親に苛立ちを感じていると、突然部屋に何か巨大なものが雪崩れ込んできて、何だと思って振り返ると、立派なドレスと燕尾服を来た肉の塊…ではなく、人がいた。
「お、お前…!帰って来たの!?私達の事を思って!?」
「お前の力があれば、確実に金持ちになれる!さあ、早く力を…!」
突然の登場して血走った目でそう話すこの太った男女は、恐らく、というか絶対に、アデルのエセ両親だろう。
確かに。整った顔と見た目を持つアデルとはこれでもかという程似ていない。
チラリとアデルの顔を見ると、完全にドン引いた顔をしている。前から思っていたけど、感情が顔に出やすい子だなと思う。
「…あーもう!うっぜえな」
「アデルはもうここには帰りませんよ」
突然空気を切り裂くように発せられたやや低い声に、その場の視線が集まる。
視線の集まる先にいたのは、この中で1番はっきり言わなそうな焦げ茶色の髪の、大人しそうな女の子だった。
「メリッサ…?」
「そんな風に、人が自分の思うように動いてくれるだなんて思っていたら、それは全くの勘違いです。
それが、あなた達みたいなロクでもない人達だったら尚更です」
…人様の親(に当たる人)にこんな批判するなんて、初めてだった。
…でも。相手が誰だろうと、アデルをこんな場所に帰したくない。
そう思うと、前まで言うのも辛かった事をあっさりと口に出来た。
「な、何だね君は!」
「そ、そうよ醜女!お前みたいな醜女が言う事なんて…!」
「おい急に醜女って何だよ!メリッサは美人だろーが!」
…怒るとこそこなんだ。アデル。
すると近くでふふっという笑い声がして、笑い声の主を探すと、そこには笑いを堪えるケントがいた。
「…カオスが重なると、こんな風になるんだ。まあでも、
お前らが捨てたんなら、俺達が貰ってくからね。この子」
そう言うとケントはアデルを抱き抱え、空いていた窓へ飛び乗った。
「はっ!?いきなり何しやがる!ケント!」
「メリッサー。早くこんな所から出よー」
「あっ!うん!クラウスさん!ありがとうございました!アデルの事なら任せて下さい!」
私も続いて窓に飛び乗り、そのまま屋敷を後にした。
逃げる途中、後ろから「待てー!」とか「逃げるなー!」なんて声がしたけど、ケントが水の精霊の力で上手く撒いてくれて、私達は逃げ切る事が出来た。




