決意、絶縁。そして出会いへ。
手紙を全て読み切ると、クラウスは静かに手紙を畳み、メイドと交代して赤ん坊を抱き上げた。
「…あなたの…いいえ。アデルお坊ちゃまのご両親は、あなたの事を本当に大切に思っておられたのですね」
赤ん坊にそう話し掛けるが、赤ん坊は「?」といった表情でクラウスの顔を見つめている。
「…あなたのご両親が守ってくれた命を、私達は必ず守りますからね。
手紙に書かれていた通り、あなたの力を狙う者がこれから現れるかもしれないし、その力が、あなたの事を更に不幸にしてしまうかもしれない。
…それでも。あなたがどんな道を選んで、どんな選択をしても、私達は、あなたを支え続けます」
「キャハハッ!」
アデルにそう呼び掛けると、アデルは明るい笑顔を見せ、きゃっきゃとはしゃいだ。
それからというものの、アデルは健やかかつ真っ直ぐに成長した。
手紙に書かれていた通り、アデルはこれまで見た事がない程強力な精霊の力を持っていて、幼い頃から精霊と意思疎通が出来るという、大人の精霊使いも顔負けの才能の持ち主だった。
けれども、あの2人はアデルの力と、それがもたらす利益にしか目がなく。
そんな大人達の勝手な都合や理不尽によって振り回されたり、価値を決められる毎日に嫌気が差して、アデルは卒業式の日にあの騒動を起こし、今は国や国の国家精霊部隊に追われる立場にある。
けれどもクラウス達にとっては、たとえアデルの行いが良くないものでも、アデルがそれで幸せなら何でも良かった。
ただ、一つだけ。アデルが命を狙う者によって命を奪われないか。それだけが心配だった。
また、後に分かった事もある。
アデルがヘルトリングの家にやって来てから一週間後、クラウス達の調査により、アデルの実の両親の姓は「シュナイダー」という名で、ライプチヒ最南端の町・トレーアで、発明家として活動していた夫婦だったという事が分かった。
それを聞いたアデルは「じゃあこれから、俺はアデル・シュナイダーだな」と笑顔で答え、それ以降は、アデル・シュナイダーと名乗っている。
更に、手紙にトレーアで両親の実家に当たる場所の地図が書かれていたらしく、トレーアに避難したアデルがその場所へ向かうと、そこには精霊学はもちろん、発明や文学など、様々なジャンルの本があり、まるでいつかアデルが来る事を待っていたかのような、アデルが知りたい事がたくさん詰まった空間があったらしい。
そこでアデルは、その両親の実家を少し改築し、精霊のサポートを受けながら国から隠れる生活をスタートさせた。
そして。
突然やって来た異国からの侵入者。
それが私達、メリッサとケントだった。




