絶縁 Side:アデル
精霊の力をフル活用しながら、逃げた先はケルンブルクにあるヘルトリングの家だった。
屋敷の中へ入ると、あの2人が玄関で俯きながら立っていて、今日って2人が帰って来る日だったか?なんて思っていると、突然顔を上げて般若みたいな顔をしながら、俺を罵倒し始めた。
「お前…!何て事をしているんだ!このクソガキ!」
「卒業式であんな失態を晒すなんて!お前はこのヘルトリング家の恥よ!」
他にも怒り狂って何て言っているのか分からない罵詈雑言を俺に浴びせてきたが、俺にはどうでもよかった。
元々そういった汚い言葉に対して耐性があるのもそうだけど…今まで俺に見向きもしなかったのに、こんな時だけ親みたいな…いや、親の皮を被った、俺の力にしか興味のない奴らの罵詈雑言なんて、俺にとっては戯言にしか聞こえなかった。
「お前の力を上手く育てれば、私達にも多額の金や権力が入ってくる予定だったのに!それをお前は今日この1日で全て水の泡にした!」
「そうだ!お前はもう…!
この家とは絶縁だ!」
「絶縁」この一言に、俺は一瞬思考が停止した。
「まあ、今すぐこの場で土下座して、私達の言う事全てに従うなら、考え直してやっても…」
完全に立場が上だと思っている2人が、俺に胸糞悪い条件を示すと、俺は「…ふふっ」と笑った。
「へっ?」こんな状況で笑みが出るなんてさすがに予想外だったのか、2人は間抜けな声を出した。
「いいぜ。喜んで受け入れてやるよ。今日から俺は、アデル・フォン・ヘルトリングでも何でもない、ただのアデルだ」
2人の目を真っ直ぐ見つめながら、自信に溢れた笑顔でそう言った。
「へっ…?はっ…?」
さすがにこんな回答が返って来るとは思いもしなかったのか、2人は呆然と俺を見つめている。
こんな家、小さい頃から離れられるんなら離れたかった。でも、俺を育ててくれた執事のクラウスやメイド達に申し訳なくて、それだけの為に生きてきた。
でも、そっちから切ってくれるんなら、これほどありがたい話はない。ぷいっと2人に背中を向け、玄関の扉を開けた。
「じゃあな。俺はもう出ていく。クラウス達によろしく頼むぜ」
俺の心情や人格を1mmも理解していなかった2人は、俺の背中に「あ!ちょっと…!」と止めるような言葉を少し浴びせたが、それ以降何も言わなかった。
…自分達から絶縁を言い渡したのに、いざ離れていくと未練がましい行動を取るなんて、何とも精神的に幼い2人だなと思う。
屋敷を出ていき、道をとりあえず歩いていると、後ろから「アデルお坊ちゃま!」と俺を聞き慣れた声がして、思わず振り返ると、執事のクラウスが息を切らしながら駆け寄ってきた。
「ア、アデルお坊ちゃま…。本当に、本当に出ていかれるのですか?」
その一言を聞いて、俺は今更ながら気付いた。
家を出ていくという事は、クラウスやメイド達、使用人達を置いていくという事だ。…育ててくれた恩も返せていないのに。
そう考えると、自分で選んだ道なのに、酷く後悔してしまう。
返事が出来ずにいた俺を見て、クラウスは白い袋を渡してきた。
「?…な、何だこれ?」
突然渡された白い袋を開けると、そこにはゴーグルやつなぎ服、そして、白くて妙に形状が長い二丁拳銃が入っていた。
「な、何だこれ…?」
「…そちらはアデルお坊ちゃまの、
実のご両親が、アデルお坊ちゃまにご用意していたものですよ」




