穏やかな日々の終わり Side:アデル
けれど、そんな穏やかな毎日は突然終わりを告げた。
俺がこの学院に入って2年目の終わりに入った頃。
俺はこの学院を、飛び級で卒業する事になった。
元々才能があったことに加え、頭脳も秀でていた俺は、勉強の進捗具合が同級生達よりずっと進んでいて、普通は7年かかる勉強を、俺は2年で終えてしまい、それどころか学者号も取得してしまい、17歳という年齢で学者になってしまっていた。
そこで学院側は、このままあと5年もダラダラと在学させるのもどうかという事で、俺を飛び級で卒業させる事にしたそうだ。
卒業式の日。
いつもみたいに黒いローブを着て、式の会場である講堂でやたらと長い副学長の話を聞くフリをしながら、俺は学長の姿を探していた。
けれども学長の姿は見当たらず、卒業式という学校行事でも重要なイベントの日にいないなんて珍しいなと思っていると、話の中で副学長から学長は体調不良で欠席だと伝えられた。
まあ、体調不良なら仕方ないかと思ったと同時に、根拠のない妙なもやもやが胸をざわつかせていた。
何かこう…。何か良くない事が起こりそうな、そんな感じが。
ぼーっとそんな事を考えていたその時、副校長から突然「アデル・フォン・ヘルトリング。前へ。」と言われ、いきなり呼ばれるとは思っていなかったので、俺は慌てて壇上に上がった。
「アデル・フォン・ヘルトリング。貴殿はこの学院で類を見ない稀有な精霊の力を持ち、それに加えて優秀な頭脳、精霊術の才能も持ち合わせていた。
貴殿は間違いなく、この学院の歴史に残る、2000年に1人の天才だ。
そしてこの才能を…
ライプチヒ国家精霊部隊がぜひ迎え入れたいと申し出てきたのだ。」
最後の一言を言った途端、会場中がわぁっと湧き上がった。
ライプチヒ国家精霊部隊は、精霊の力を持つ者たちで構成された国家直属の軍で、俺の同級生にもこの組織に憧れている奴が何人かいる。
仕事内容として、主に国の警備や危険生物の討伐、そして…
俺の実の親を殺害した組織でもあった。
基本的にこの組織は入隊試験を通してでしか入る事が出来ないが、俺の場合は特例中の特例だったらしく、卒業後に試験なしで迎え入れたいと、向こうから申し出があったらしい。
「おめでとう。貴殿は幸せ者だなぁ」
そう言いながら、副学長は笑顔で俺に組織の一員の証である赤いペンダントを首にかけようとしてきた。
赤いペンダントを俺の首にかけようとしたその瞬間に…
パリンッ!
俺はそれを振り払って地面に叩きつけ、ペンダントを壊した。
その様子を唖然としながら見つめる副学長に対し、俺はこう言った。
「勝手に入る事を決めてんじゃねぇよ。そんなんお断りだ」
俺は、ライプチヒの国家精霊部隊に入る事を、真っ向から否定した。




