…俺が優しい? Side:アデル
「…なぁ学長…。さっきから何で俺の事を『優しい』なんて言うんだよ」
俺は生まれて今まで「優しい」なんて言われた事がない。むしろその逆だ。
偉そうに振る舞う教師の話はフル無視だし、敬語は使えるけど使わない。何なら学長という、この学院で誰よりも尊敬される立場にあるこの人に対しても、こんな話し方で接している。
おかしいと思った事は同級生だろうと教師だろうと反論するし、そんな性格のせいで友達もいない。というか多分同級生からも、教師達からも嫌われている。
優しい奴は友達に囲まれているなんて言うけど、俺は見事なまでにその特徴に当てはまっていない。
つまり俺は「優しい」から最も程遠い所にいる奴なのだ。
…それなのに。
「ふぉっふぉっふぉっ。お主の話は教師達からよく聞くんじゃがの、
口も態度も悪いが、行動は本当に優しい。そう思ったんじゃよ」
口も態度も悪いけど、行動は優しい…?
その言葉に動揺していると、学長は再び微笑みながら語りかけてきた。
「教師達の報告もかなり私情が入っていて、明らかにお主を悪く仕立てようとしている感じがあったし…それに関しては説教じゃな。
でもお主は今日も、今までも。自分以外の他人を心配する言動ばかり取ってるんじゃよ」
「えっ?はっ?」
「『誰も傷付けたくない』『精霊に辛い思いをさせたくない』そんな事を考える人が、優しくない訳がないじゃろうて。お主は確かに表面上は不良みたいじゃが、その奥にあるお前の行動と気持ち…それはもう、優しい人のそれなんじゃよ」
今まで言われた事がないような事を言われて無意識のうちに顔に熱が集まり、真っ赤になる。
「い、今までそんな事言う奴…!」
「あぁ。お主のような圧倒的な才能と優しさが同時に存在している者は、どういう訳か孤立したり、もしくは…
死ぬまで周りに利用されてしまう」
その言葉に鳥肌が立った。何せ、俺はこの才能のせいで、実の親が殺されたんだ。
もしこの才能がなかったら…と思うと、俺は今、どんな生活を送っていたんだろうか?
「…だからこそ。わしはお主のような者に、周りの目を気にせず、周りの進んで欲しい方でなく、自分の進みたい方を選んでほしいんじゃ。アデルよ」
その言葉にハッとした。…周りの進んで欲しい方じゃなくて、自分の進みたい方…。
「そもそも他人があれこれ口出しする権利なんてないのに、『才能がある』というのが、お主を好き勝手にしていい理由になんてならんじゃろう?」
…そうだ。俺はこの国の殺戮兵器にも、あの2人の奴隷になんかにもなる気は微塵もない。
じゃあ何がしたいかって、それは分かんないけど、でも。
自分にしか出来ない事が必ずあるはずだ。
それを見つけて、俺は精霊と一緒に生きていきたい。
その日から俺は、自分の才能を恨めしく思う事はなくなった。




