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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第2章 精霊国家・ライプチヒ
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アデルの出生の秘密② Side:アデル

 俺の一番最初の記憶は、360度本に囲まれた部屋で、家庭教師から精霊に関する歴史を教えてもらっている時だった。大体4歳くらいの時だっただろうか。

 ライプチヒでもそこそこの歴史を持つ貴族家・ヘルトリング家の一人息子という立場で、小さい頃から礼儀作法や食事マナー、数学や歴史といった学問…そして、精霊に関する事を朝から晩まで叩き込まれた。そのせいか、訳あってヘルトリング家から離れた今でも、その時の癖が残っている。


 俺は物心つく頃から強力な精霊の力を持っていた。

 精霊の力を持つ者は、その属性の精霊の姿を見る事ができ、勉強がしんどくて弱音を吐きそうだった日や、怖い夢を見て眠れなくて、でも執事のクラウスやメイド達にも言い辛くて、1人でベッドの中で泣いていた夜も、精霊たちが傍にいてくれて、俺の事を励ましてくれたりした。

 

 そんな俺が小さい頃から疑問に思っていた事。

 それは精霊に関する事でも、数学で分からない事でもなければ、うちで働く執事やメイド達がどれくらい働いているのかでもなく、俺の両親に関する事だった。

 1か月に1回くらい、執事のクラウスやメイド達と一緒に息抜きに街へ出かける機会があり、その時いつも思っていた事だったが、街を歩いていると父親と母親が俺くらいの歳の子どもと手を繋ぎ、「今日の晩ごはんは何がいい?」「もうすぐ誕生日だけど、何が欲しい?」と楽しそうな会話を繰り広げるのだ。

 一見何の変哲もなさそうな会話だが、俺にとってはそれは歩くのを止めて、思わず立ち止まってその家族をじっと見てしまう程不思議な光景だった。


 何でかって、俺は両親と出かけた事も、一緒に食事を摂った事も、何ならこんな風に楽しい会話をした事が一度もなかったからだ。

 俺の両親はこのヘルトリング家の当主とその妻で、恐らく仕事で家を空ける事が多く、週に1回しか家に戻って来る事がなかった。

 家に戻っても俺に「今日も勉強はしたか?」と聞いてきて、俺がこくりと頷くと、すぐに2人で自室へと戻ってしまうのだ。思えば、物心着いた頃からそのような業務的な会話しかした事がない。

 勉強面はもちろん、風邪や体調不良になった時の世話や、月に1回の息抜き、食事や衣類の管理といった、普通は親がやりそうな事は全て執事のクラウスやメイド達が全てやってくれたので、俺の中で育ててくれたのは親ではなく、ヘルトリング家の使用人たちだと思っている。


 そんな俺は、ある日好奇心である事をやってみる事にした。それは「両親に話しかけてみる」という事だった。

 街の親子達の反応から考えてみるに、少なくとも何かしらの反応はくれるはずだ。俺は両親が返ってきた日、いつも通り「今日も勉強はしたか?」と聞かれてこくりと頷くと、背中を向けて自室へと戻っていく両親に「父上、母上、一緒に食事が食べたいです」と話しかけてみた。


 …ところが、帰って来たのは俺の予想とは全く違う反応だった。


 「…ん?今何か、動物の鳴き声がしなかったか?」「いいえ?気のせいでは?」

…俺の言葉を無視して自室へ戻っていく、何なら俺の言葉を遠回しに小馬鹿にするような両親の反応だった。

 聞こえていなかったのかと思ってその翌週も、そのまた翌週も同じ事をやってみたが、反応は同じだった。

 そんな日々が続いてさすがの俺でも心が折れそうだったある夜、俺の心を酷く揺るがす、ある会話を聞いてしまった。


 夜中にトイレに行きたくなって寝室を抜け、廊下を歩いていた時。途中で両親の自室があったのだが、その扉が少しだけ開いていて、両親は何か話をしているようだった。俺は好奇心で、両親の会話を少し盗み聞きする事にした。

 「もう!毎週毎週話し掛けてきて、もううんざりです!」

 「まあまあ。適当に無視しておけば良いじゃないか。」

 「旦那様はどうしてこうも平気そうなのですか!




 あんな強力な精霊の力を持つだけの、私達とは血も繋がっていない平民の子!この家にいるだけでも気が狂いそうなのに、今度は普通の子どもみたいに甘えてくるなんて!」


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