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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第2章 精霊国家・ライプチヒ
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温泉

 「本当にありがとうございます。まさか子ども達の命だけでなく、金品も取り返し、山賊達も退治して下さるとは…」

 この村の村長である、白髪が特徴的な老爺からお礼の言葉を伝えられる。

 「皆さんは旅の方ですかね?でしたら、是非うちの村に泊まっていって下さい」

 「…どうしよう?2人共?」

 ケントとアデルに問いかける。

 「…まぁ。この辺りに宿とかねぇし。いいんじゃねぇか?」

 「そうだね。夜道は危険も多いし、お言葉に甘えさせてもらおう」

 2人がそう言うので、私達はこの村に泊まる事になった。

 「うちの村の奥にある宿をお使い下さい。もちろん、代金は頂きませんし。寝床もお食事も無料でご用意いたします。それと、お疲れでしょうし、是非うちの温泉をお使いください」


 …温泉!その言葉に思わず反応してしまった。何でって、昨日と今日で散々動き回って、ゆっくり休む時間も、お風呂に入る時間もなかったので、ゆっくりできて単純に嬉しいのと、アラクは他国と類を見ないくらい温泉が多い、温泉大国(学校の社会の授業より)だ。私が子供の頃はよく…。


 そこまで考えて、私は思考を止めた。ハッとした私にケントが「メリッサ?どうしたの?」と聞いてきたけど、思わず「ううん。何でもない」と返しておく。


 …何で外の世界に来て、母親の、母親との思い出を思い出すんだろう。私の心の弱さに自分で呆れてしまった。


 宿が用意してくれた食事を食べ、温泉の女湯に入る。お湯に浸かり、夜空に上がる湯気を見ながら、冷たい夜風が素肌に触れる心地良さを感じながら、私はあの山賊のアジトでの事を考える。考えていたのは、ケントの事だ。

 ケントが強い事は前々から分かっている。それでも、あんな風に人の命を奪う事に何の躊躇いもないような、もっと言うなら、一種の殺し屋のようだった彼の姿に、私は一瞬置いて行かれたような気持ちになった。

 …いや。置いて行かれているのは、ケントに限った話じゃない。今まで外の世界は、自由と幸福に満ち溢れていると思っていた。確かに、精霊という不思議で不可解な力や、個性的な人がたくさんいるという意味では「自由」に当てはまっているかもしれない。


 …でも。自由であるが故に、不条理や不平等が自然と発生して、さっきみたいな強奪や殺人が起こってしまう。


 …外は自由だ、なんて甘い考えを持っていた自分が酷く恥ずかしい。そもそも、本当の意味で自由な場所なんてないのに、とりあえず外に出たいなんて、浅はかすぎて笑いが出てしまう。


 もっと気を強く持たなければ。ふーっと息を吐き、そう決意して、私は温泉を後にした。

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