偽善だったとしても
「ありがとうアントン…でも私ね、そんな恩人とか言われるような程、大きな事はしてないよ」
「?」
「私は長い間自分の気持ちが分からなくて、だからもしかしたら、ここへ来ているのも、偽善の気持ちがあるからじゃないかって思って。だから…」
「偽善でもいいんじゃねえか?」
へっ?と間抜けな声が出た。
「偽善だったとしても、お前が行動したっていうのは事実だろう。それでこうやって、助けられた命や救われた存在があるんだから、お前はやっぱり俺達の恩人だよ。まあ、助けられる側からしたら、偽善でも正直気にしないんだけどな」
…胸がじんわりと熱くなった。今まで自分は、何で生きているのか分からなかった。…けど。
こうやって自分の小さな行動で誰かの心や命を助けられたなら、私は生きてて良かったかもって、ほんの少しは思えた。
「だからメリッサ。それはお前が持っていけ」
そう言われると私はこくりと頷き、ありがとうアントンと返した。
「…あっ、ねぇアントン」
…どうしよう、今すごく重要な事を思い出した。
「ん?どうした?」
「…私がいないのに、危険生物にどうやって対応するの?」
そうだ、これが物凄い重要だ。何せ、地下街のみんなの命が関わってくるのだから。
「あぁ。それなら、俺の地下街知り合いに武術の心得がある奴がいるし、何なら俺も少しは戦えるぜ」
…え!?アントンって戦えたの!?最初から言ってくれたら良いのに…。
…まあ、本人がそう言うなら、その点の心配はしなくても良いのかな?私はひとまず安心した。
「そういやさ、島から出るって、どうやって出るんだ?」
「あぁ、それなら俺が何とかするよ」
今までの会話をずっと聞いていたケントが会話に入ってきた。
「ん?この兄ちゃん誰だ?さっきから気になってたけどよ。メリッサの男か?」
「全然違う」
…何だ?このどこかでやったような会話は…。というか、アントンまで何言ってるんだ本当。
「違うのかぁ?でも2人、並ぶと結構バランス良いぞ?」
バランス良いって何だ?新手の誉め言葉か?
「まあでも、メリッサも男の1人や2人いてもおかしくない年頃だもんなぁ。…なあ兄ちゃん」
アントンの呼びかけに、ケントがん?と反応する。
「メリッサの事、よろしく頼んだぜ」
「…うん、もちろんだよ。任せて」
…何だ。この結婚を控えた娘の父親と、その婚約者みたいな会話は。
「がははっ!兄ちゃん面白いな。島から出るって不可能なのに、兄ちゃんだったら可能な気がしちまう」
そんなこんなで、私は無事に武器を入手する事ができた。
他の最低限の荷物は通学リュックの中に入っていたので、つまり…。
「準備できたよ、ケント。行こう」
とうとう、島を出る時が来た。




