予感の的中②
盗み聞きした話の内容はこうだった。
アラクの犯罪の大半は、この地下街の住民が犯しているものであり、彼らは教養もない、知能も低い、努力の機会を与えても結果に繋がらないのだから、生きている意味などない。
だから、火を放って地下街ごと燃やし、街と住人を滅ぼしてしまう事で、この国をより良くしようというものだった。
…1から100まで、何を行っているのか全く分からない。
そもそも、そんな彼らをこんな風になるまで追い込んだのは、そんな政策ばかり行っていた政治家・政府側だし、そんな人に「努力が足りない」「甘えだ」なんて言ったところで、何も変わらない事なんて、考えれば分かるのに…!
そして何より、「火を放つ」という言葉に戦慄した。
確かによく見ると、彼らの足元には何十個ものタンクの様な物があり、恐らく中身は…石油や車のエンジンで、これを街中にかける事で街を火の海にするつもりなんだろう。
そうなると、ヘンリー達はもちろん、ヘンリー達の家族や、みんなの命が…!
思わず隣にいたお兄さんを、泣きそうな顔で見つめる。お兄さんも私の目線に気付き、私の顔を見つめる。
「ね、ねぇ…火、放つって…。ど、どういう事?
本当だったら、ど、どうしよう…」
心臓がバクバクと鳴るせいで呂律が上手く回らず、うまく言葉が出ない。
「ねぇメリッサ」
優しい口調でそう呼びかけると、お兄さんは私にこう言ってきた。
「大切な人を、守りたい?」
その質問に私は迷わずこくんと頷くと、お兄さんはそんな私を見て、フッと笑って言った。
「止めたい、おかしい、守りたい。その気持ちがあるんだったら、とにかく自分が進みたい方に進むべきだよ」
えっ?と拍子抜けした私の手を引き、物陰から出たお兄さんは、突然高くジャンプしたかと思ったらその瞬間、自衛官達の1人の腹に飛び蹴りを食らわせ、一撃で気絶させてしまった。
そして何だ何だと動揺する自衛官達の反応より素早く動き、長い足を弧を描くように蹴り上げると、そのまま別の自衛官の頭に蹴りを食らわせ、1人、また1人と気絶させ、この10秒間でお兄さんは自衛官を3人も気絶させてしまった。




