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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第5章 宗教国家・フィンマルク
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聖女との再会

 「それで、何か言う事はあるか?」

  

 アデルがケントを壁に追い込み、ポケットに手を突っ込みながらケントの骨盤の横辺りに蹴りを入れ込むような、所謂足ドンのような体勢になる。

 アデルがいつも以上に睨みを利かせた表情でそんな事をするので、状況を知らない人がこの現場を見たら、ただのカツアゲか脅しの現場にしか見えないだろう。


 あの戦いの後、私達は密着している所をアデル達に見られてしまい、恐らくケントが私に何かよからぬ事をしようとしているのだと勘違いしたアデルによって引き剝がされようとした。

 けれども肩幅が割と広く、筋肉量もアデルより圧倒的に多いケントをアデルが引き剥がすなんて芸当ができる筈もなく、結局力の精霊の力をもつナディアが引き剥がしてくれたのだが、その様子は見ていてかなりカオスだった。


 「男苦手なメリッサが安っぽい誘いをする訳ねーから、さっきのはせいぜいお前が何かやったんだろ」

 「……」

 「ほんっとーーーに何かやった訳じゃねぇんだな?」

 「……そうだよ。俺がちょっと動揺して、一瞬弱った所をメリッサに優しくしてもらっただけ」

 

 ケントの告白を聞いたアデルは、そのままその様子を近くで見守っていた私に視線を移し、「本当か?」というアイコンタクトを送る。

 まあ、さっきのはびっくりはしたけど特別何かされた訳ではないし、ケントの言っている事も概ね本当だ。私はコクコクと頷くと、その様子に白だと分かったアデルは視線をケントの方に戻し、そのまま足も地面に戻した。


 「……あっそ。何もないならいいけどよ。けど……」

 お前、冗談抜きで何者なんだ?というギリギリ聞こえるかくらいの呟きを、私は聞き逃さなかった。

 これまで怒涛の展開続きで考える暇もなかったけれど、この青年は改めて何者なのだろう。温和で飄々としているかと思ったら突然死神のような冷酷さを見せて、そしてさっきは行き場をなくした子どものように弱った表情を見せて。この人は一体……?。


 そう思っていると、頭に何かが被さるような感覚がして、何かと思って触ってみるとそこには白くて暖かい布があった。

 「メリッサもケントも、身体が少し血で濡れてるから、これで拭くといいよ。さっき近くの家の人にお湯を借してもらったから、拭きやすいはずだよ」

 

 若干殺伐としていたこの状況に気遣いをしてくれたナディアの優しさに、気持ちがほっと安心する。

 貰ったタオルで身体を拭いていると、後ろから「そこに誰かいるの?」という声がして、思わず血で汚れたタオルをガバッと後ろに隠す。


 「あら……?あなた達はさっきの旅の……」

 「!セシリアさん!」

 予想していなかった目的の人物との出会いに、無駄に大きな声が出てしまう。セシリアさんは私達に美しい足取りで近付いてくると、私達全員を一瞥した。


 「この村まで歩いてやって来たの?一体どうしてこの村に……」

 「あ!えっと、あなたに会いたくて、この村までやって来たんです!」

 「まあ、私に……?」

 何でこんな告白みたいな文章になってしまったのかは分からないが、私はそのまま続けた。


 「私達、この国で信仰されてるゲルマン教の事が知りたくて。隣の村の子から、セシリアさんならすごく詳しいから、何でも知ってるから聞くと良いって教えて貰って」

 「そうだったのね。この国の事に興味を持ってくれてありがとう」

 私の告白にセシリアさんはふわりと朝日のような柔らかく優しい微笑みを浮かべて、さっきこの人が聖女と呼ばれていた理由が分かったような気がした。


 「……といってもね。ゲルマン教は、そこまで厳しい宗教ではないのよ」

 「えっ、そうなんですか?」

 「ええ。まずゲルマン教は、聖獣様という神を信仰する宗教なんだけど、朝と昼と晩。決められた時間に聖獣様に祈りを捧げるという決まり以外は、特に大きな決まりがないのよ」

 「それじゃあ、これをやったらいけないとか、あれを食べたらいけないとか、そんな感じの決まりも?」

 「ええ。一年に一回、聖獣様の生誕をお祝いするお祭りがあったりもするけど、全く堅い行事ではないし、さっきあなたに絡んでいた聖職者がいたけれど、あれは宗教云々の決まりというより、人として駄目だし良くない行いだったから止めに入ったのよ」


 ……どうやら、思っていた以上にこの国で信仰されている宗教は厳しい宗教ではないそうだ。それならどうして、あの村の老婆のような異常性が見え隠れするような事になるのだろうか。


 「あとはそうね……。厳しくはないけれど、でもゲルマン教が中心となっている部分は確かにあって、この国の最高権力は、ゲルマン教のトップである法王が持っているのよ。他の国で言う王様のようなね」

 「へえ……」


 法王。さっきの騎士も言っていた言葉だ。この国ではその法王と聖獣が多くの国民から崇められていて、その二つの存在がこの国の歯車を乱しているのだろうか?

 そう思った時、セシリアさんは雪で見えなくなった先程ケントが殺害した騎士の遺体現場近くにしゃがみ込み、目を閉じて指を組み、祈るような姿勢を取る。


 「あれ、セシリアさん……?」

 「……この近くはね、村人達が騎士によって暴行を受けたり、殺されたりする事が多い現場なのよ。ここに誰かの魂が望まない形で散ってしまったのだと思うと……」

 「!あの、それって……!」

 「嫌な話をしてしまってごめんなさいね。また会う事があれば、その時は何かこの国の美味しい物をご馳走するわ」

 

 私の呼びかけをわざと聞き流すように、セシリアさんは私達に笑顔を見せると、そのままどこかへと去って行った。

 

 「……どうしよう。大きな情報は手に入れられなかったね」

 「……そうだね。これからどうやって……」

 「おやあんた達。見ない顔だけど、旅の者かい?」

 

 後ろから声を掛けられて振り向くと、そこにはやや太った体型の中年女性が立っていた。この辺りではあまりない髪色と顔立ちをした私達が珍しかったのか、遠慮なく顔をじろじろと見ていて、何となく良い気分にはならなかった。

 

 「あ、はいそうです……」

 「あんた達、さっきの女の人と知り合いなのかい?背の高い亜麻色の髪の女の人と」

 背の高い亜麻色の髪、という事はセシリアさんの事だ。この人もセシリアさんの事を知っているという事は、やっぱりセシリアさんは有名な人なのかもしれない。


 「知り合いっていうか微妙なような……?」

 「そうかい?でもあの人に関わるのはやめておきな」

 「……え?」

 予想外の忠告に疑問の声が自然と出てきて、他のみんなも同じような反応になる。


 「あの人はね。この国の先代の法王の妹なんだよ。それもこの国を不幸のどん底に落とした、最低最悪の法王の」

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