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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第5章 宗教国家・フィンマルク
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氷の聖女

 目の前に現れた女性の容姿を改めて確認する。

 亜麻色の背中まで伸びたややウェーブがかったロングヘアーに、頭には何の花なのかは分からないが花の刺繡が施されたヴェールのようなものがついたアイボリーのベレー帽のような帽子を被っている。

 服装は同じく白とアイボリーを基調とした、膝下まであるワンピース……といっても下に何か着ていそうな感じはあるので、薄着な感じは全くないが。そして黒いタイツと黒いミドルブーツを履いた、これが雪国のおしゃれなのかなという風に思ってしまうくらいには、この人にマッチした格好だった。

 

 そして服装以上に目に入ったのが、この人の顔立ちだ。

 別に自分が特別面食いとかそういう訳ではないが、それでも同じ女性である自分から見ても、この人の顔立ちは綺麗だった。

 肌は雪国出身だからか雪みたいに白く、顔立ちからして自分よりも年上に見えたが、それでも年齢という概念を感じさせないほど毛穴のない綺麗な肌をしていた。

 瞳の色はラベンダー色で、目や全体のパーツは丸い形なのでそれが服装と相まって柔らかい雰囲気を醸し出していそうなものだが、今はこの変態僧侶の人に対して向けられた怒りの感情のせいで、眉間には軽く皺が寄り、口はこれでもかと言う程真っ直ぐで、目は若干細められていた。

 

 「その旅の女の子に、一体何をしようとしたの?しかもさっき、この村の教会の地下でどうのこうのといった会話が聞こえてきたんだけど……」

 「いっ!いえ!氷の聖女様!私は本当にこの方にゲルマン教について知って頂きたくて……!」

 「……」

 身体の方向は私に向けたままで、顔だけをこの氷の聖女と呼ばれる人に向けてつらつらと言い訳の言葉を並べる僧侶。ちなみに台詞だけ見れば反省の言葉を並べているようにも感じるが、だらだらと胡散臭い言い訳をしている間もずっと私の腕を触ったままで、今までに会ってきたどの人よりも本心が見え見えだった。おかげで私の表情も、気が付けば私のペンを踏みつける形で壊してしまい、噓泣きだと丸分かりの

号泣謝罪をしてきたクラスメイトを見た時のような、白けた表情になっていた。


 「……だらだらと言い訳をする前に、その手を放しなさい」

 話がほとんど発展しないと気付いたのか、やや強引にだが私の腕を触っていた腕を振りほどき、僧侶と距離を取りつつ私の傍に立ってくれる女性。私の顔が分かりやすいくらい面倒くさそうな表情をしていたから、わざわざフォローに入ってくれたんだろうか。

 「……最近噂が耳に入ってくるのよ。神聖な教会の、棺などを安置している、人が立ち入りする事があまりない地下で、適当な言い分を並べて女性を誘導し、淫らな行為をしている聖職者が何名かいる、と」

 ……わお。それはまた物騒な噂で。しかも内容からして、私は被害に遭いかけた可能性が高い。

 「まだ全員は分かっていないけれど、あなたもそのうちの一人で間違いなさそうね?これは下手をすれば、あなたのその地位を奪いかねないし、何より聖獣様に背く……」

 「もっ!申し訳ありません!心より反省しております!どうかこの機会に心を入れ替え精進いたしますので!どうか!どうか!」

 心を入れ替える、というこの世の信頼できない言葉上位三位にランクインしそうな台詞を吐き、年配で足腰とか弱まっているだろうに、雪の上を軽快に早歩きしながら変態僧侶はどこかに逃げて行った。

 

 「あっ!ちょっと……!」

 女性は一瞬慌てたが、そんな言い訳をするような奴を追いかけて問い詰めても意味はないと悟ったのか、すぐにすんっと落ち着いた。

 何かいろんな国で変な人に絡まれてるなぁ私、と謎に冷静な自己解釈を頭の中でしていると、「ねぇ、あなた」という優しい声が降ってきて、声の方へ顔を向けた。

 「さっきは大丈夫だったかしら?見たところ怪我はさすがにしていないみたいだけど……」

 「あっ、はい。私は大丈夫です」

 さっきは声の所々に棘を感じさせるようなやや低い声だったが、今は聴いた瞬間に心に染み渡るような、柔らかくて落ち着いた声だった。恐らくさっきのは怒っていたからあんな感じになっただけで、地声はこっちなのだろうとすぐに納得する。


 「良かったわ。私はセシリア・カールセン。この国で信仰されている、ゲルマン教のシスターよ」

 シスター。神に仕える女性の事だ。別にお伽噺の中のシャーマンとか、海賊みたいなフィクション感満載の職業ではなく、確実に存在している職業なんだけど、いざ自己紹介の時にそう言われると一瞬「?」となった。これは私がそんなものがなかなか職業として認められないような国で長年育ったからで、ケント達だったらすぐに納得できたのかもしれないが。

 「あ、えと……。私はメリッサ。メリッサ・リンドグルツです。旅の者で、この国の事情とか特色とか?はまだあまり知らない事が多くて……」

 「まあ、そうだったのね。だからさっきも……」

 けどまあ、あのレベルの年配の方であれば、何かあっても武器も使わず素手で撃退できそうだけどな。聖職者って正直、偏見に近いけど戦えるイメージがあんまりないし。

 「旅の者という事は、もしかして仲間の方と一緒なのかしら?このまま一人でいてまた絡まれたりしたら大変だから、私が仲間の元まで送るわ」

 別にそんなご親切になさらずとも……。でも下手に撃退して騒ぎでも起こしたらそれはそれで大変そうなので、ここはお言葉に甘えてしまおう。

 

 「旅の方という事は、一体どちらからいらしたのかしら?」 

 セシリアさんと一緒に歩きながら、村の片隅で待っている仲間の元まで戻る。

 あとさっきは気付かなかったけれど、この人私よりちょっとだけ背が高い。最初話し掛けられた時、声が私の頭より上から降って来たので、その時にも若干違和感を感じてはいたが、自分より背の高い女性に会ったのは初めてだった。

 「私はアラクから来ました」

 「アラク……。えっ、アラク?」

 アラクって鎖国制度を行っている国でしょ?という心の声を感じ取りつつ、でももう国を出た理由を説明する気力も何となくなかったので、「はい、アラクから来ました」と結論付けておいた。

 「あっ!メリッサ!おかえ……り?」

 私の気配に気づいたナディアが声を上げるが、隣に誰だか分からない女性が立っているのだから、全員の顔に「?」の色が浮かぶ。

 

 「あーえっと、これはね……」

 「……また絡まれたの?変な男に」 

 ケントが若干険しい顔になりながらそう尋ねてきて、私は何故か片言で「ハイ、ソウデス」と肯定する。何で私がしどろもどろになっただけで何があったか分かるんだ、ケントは。

 「またぁ!?何でメリッサそんな男運悪いの!?」

 「メリッサおま……。そろそろお祓い行った方がいいぞ……」

 疑問と怒りの表情を浮かべるナディアと、一周回って何とも言えない表情を浮かべるアデル。私も何でこんなに絡まれ体質なのか、私が一番知りたいよ……。

 「この方達があなたの仲間?」

 「あっ!そうです!送ってくれてありがとうございました!」

 「いいえ。それじゃあ私はこれで」

 そう言うとセシリアさんはどこかへと歩いて行った。


 「あっ、あのねみんな。あの人はセシリアさんっていうこの国のシスターの方?で、さっき絡まれてた所を助けてくれて……」

 変な勘違いをされても大変なので、慌ててセシリアさんについての説明を始める。その時だった。


 「きゃああああああ!危険生物よ!」

 「……!」

 全員の意識が村の中心部に向けられる。急いで武器の用意をし、さっき起こった事なんて全部どこかに放り投げて、声がした村の中心部へと向かった。

 

 

 

 

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