不穏な予感②
急いで走って、地下街へと到着した。
…地下街っていう危険な場所でスマホを使ったら、盗まれてしまうのは分かってるし、出してなんていなかったはずなのに…どういう事だろうか?
うーんと考えながら広場へ向かうと、そこには運が良いのか、お兄さんがいたのだ。
「おっ!メリッサ!」
広場近くの家にもたれかかりながら、お兄さんはこっちを見てきた。
「良かった!ねえお兄さん、私のスマホ…硬い長方形のもの知らない?」
「ああ、もしかしてこれの事?」
そう言ってお兄さんは、右手に薄桃色にクリアケースに入った私のスマホをフリフリと見せた。
「あー!それ!良かったあああ!ありがとうお兄さん!」
スマホを発見した途端、心臓の鼓動の回数が減っていくのを感じた。
元々スマホは頻繁に使うタイプではないが、こうして無くなるととんでもなく焦る。それも、治安の悪い地下街で無くしたので、もう戻ってこないんじゃないかと思っていたので尚更だ。
「それにしても、夜の地下街って静かなんだね。昼の賑やかさとのギャップが凄い」
そうなのだ。夜の地下街は消灯時間が非常に早く、7時くらいには完全に住民のほとんどが眠りについてしまう。恐らく地上とは違って、テレビやスマホの様な娯楽が少ないからだろうか。
「なんか静かな場所にいると、世界に自分しか存在しないって感じになって、不思議な感じがする」
フッと微笑んだお兄さんを見て、1つ思いついた。
今聞いてみようかな、お兄さんの名前。すごい今更だけど。
優しくて聡明で、いつも落ち着いた、唯一無二な雰囲気のお兄さん。この人の名前を、知りたい。
…何か、自分から他の誰かをもっと知りたいと思ったのは、多分初めてかもしれない。
「…ねぇ、お兄さん」
「ん?」
「あなたの名前、何ていう…」
「よーし!全員集まったな!」
私とお兄さんの立っている奥の方から、太い男性の声うっすらと聞こえてきた。
「……ねぇ。今の声、聞こえた?小さかったけど」
「……うん、聞こえた。うっすらとだけど」
根拠はないけど、どこか嫌な予感がして、思わず小声で呼びかけると、お兄さんも小声で答えてくれた。
「…何か、よく分からないけど不安だから、ちょっと行ってみない?」
「そうだね。1度見に行ってみようか」
顔を見合わせながら頷くと、私達は奥の方へなるべく音を立てないよう、早足で向かった。




