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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第4章 芸術の都・ケルンセン
205/215

番外編~レイ・ボストンの心情~

 ここで少し番外編に入ります!メリッサのクラスメイト、レイ・ボストンのお話です!

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初めてメリッサ・リンドグルツの姿を見た時に感じたのは、普通高身長だったらファッションモデルみたいな独特なオーラが少なからずあるのに、彼女はそれを一切感じさせない、まるで低身長の女子と同じような柔らかい雰囲気を感じたという事だった。

 けど感じたの本当にそれだけ、それ以上でもそれ以下でもなかったし、いつもクラスメイトや部活動の友達とつるんでわいわいと騒いでいる自分と、教室の隅っこで一人黙々と読書をしているような彼女では、どんなきっかけがあっても交わることなんてないと思っていた。

 

 そんなこんなでレイ・ボストン、高校二年生は、今年最後にして最大、最悪のピンチに立たされていた。

 ピンチというのは、一週間後に迫っている二年最後の学期末テスト、その中でも歴史のテストがまずいのだ。

 元々自分は要領が良い方なので、テストは前日に詰め込めば赤点(うちの学校で赤点は四十点)は回避できる……のだが。

 歴史のテストに関してはどういう訳か詰め込んでも良い点数が取れない。というか、詰め込みのしようがないのだ。

 登場する人物名や出来事、何年に何が起こったという事は暗記でどうにかなる。けど、うちの学校の歴史のテストは、記述や引っ掛け問題が多いのだ。それも、内容をよく理解していないと書けないような、頭を捻らないとそもそも解けないような問題が多い。

 うちの学校の社会科の教員、レオン先生は絵画の中から飛び出してきたようなイケメンだが、その容姿の美しさをぶち壊してしまう程に厳しくて怖い。赤点を取ろうものなら「一体どんな勉強をしてきた?」と淡々と正論攻めされて、そのせいか容姿の良い教員には目の色が変わる女子生徒の間でも、評判が良くない。


 そして自分も、そのレオン先生の正論と言う名の処刑に遭いそうになっているうちの一人だ。

 前回赤点を取ってしまい、レオン先生から蛇の如く睨まれたうえで説教を食らった為、二年最後のテストはどうにか赤点は回避したい。

 今はテスト一週間前なので、部活動も休みで勉強の時間は十分に取れる。けど、歴史に関しては内容をきちんと理解している人から教えて貰わないと駄目な気がする。

 どうしたものか……と頭を抱えていると、頭の中に一つの案が浮かんだ。

 同じクラスのメリッサ・リンドグルツだ。元々男女でグループも違ったし、お調子者気質でやかましい自分と、真面目で物静か、いつも誰ともつるまず本を読んでいる彼女で、話した事は本当に指で数えられる程だったが、前回の彼女の歴史のテストの点数に驚いた事を、今でも覚えている。


 前回の歴史のテスト返却の時、みんなの間で何点だった?合戦が起こり、人の目も気にしないで「三十五点!」とか「ギリギリ回避!四十二点」と声を上げていた。

 お前は赤点かよー、まあお前アホの子だもんなー!とクラスメイトに揶揄われる中、当時自分の斜め後ろの席だったリンドグルツさんの姿が目に入った。

 全くと言って良い程話した事のない人だったし、この機会に少なからず縁が出来るのではと思い「リンドグルツさんは何点だった?」と彼女の答案用紙を覗き込んだ。

 「えっ……」

 いきなり覗き込まれるとは思っていなかったのか、一瞬動揺の色を見せた彼女だったが、その答案用紙には赤いペンで大きく「九十六」と書かれていた。

 「えっ……きゅ、きゅうじゅう……?」

 あの難しいと評判のレオン先生のテストで赤点を余裕で回避、それも大抵の人なら高得点だと感じる点数を取ってしれっとしている彼女に、尊敬を通り越して畏怖に近い気持ちを抱いた。

 

 すごいね、頭いいんだねリンドグルツさんってという、無難の極みみたいな会話でやり取りは終了し、それ以降彼女とは話していない。

 —断られるかもしれないけど、だめもとで頼んでみようか。そう思い、放課後になって続々と生徒が帰っていく中、いつもの仲間達を先に帰し、窓際の席に座って帰り支度をする彼女に話し掛けた。

 「リンドグルツさん」

 ん?という表情を浮かべながら俺の顔を見てくるリンドグルツさん。普段ほとんど会話なんてしない人に話し掛けられた為か、目を数回ぱちぱちと瞬きをした上できょとんとした顔を浮かべていたが、不思議と拒否されている感覚はなかった。


 「えと、俺歴史のテストが自信なくってさ。リンドグルツさん、歴史得意だよな?リンドグルツさんが良ければ教えて欲しいっていうか……。あでも、図書室は今人多いし、人の多いとこだと俺集中できないっていうか……」

 おい、最後のは余計だろ。こっちが頼んでる側なのに、さらに要求を重ねるなんて。

 他のクラスメイト達は全員帰宅して、教室には自分とリンドグルツさんのみが残された。

 するとリンドグルツさんは焦げ茶色のポニーテールを一瞬揺らし、何か思案するような表情と仕草をする。

 ……これは、もしかしたら駄目かもしれない。

 そう思った次の瞬間、リンドグルツさんは席から立ち上がり、「分かった、着いて来て」と言い、すたすたと歩いて行った。

 「えっ!?おお、うん……」

 慌てて彼女の背中を追いかけ、まるで親鳥について行く雛鳥のような、何とも言えない構図が完成した。

 

 歩いて、階段を下り、階段を下り、階段を下って辿り着いたのは、学校の地下だった。

 こんなとこ初めて来たな。そう思いながら先を歩くリンドグルツさんの姿をもう一度見る。

 焦げ茶色のポニーテールが特徴的だと思っていたけど、いざ歩いている姿を見ると背が高く、見ただけで百六十五センチ以上はあると分かった。それに、脚も長くて全体的にすらりとしたスタイルの持ち主で、今まで知れなかった、多分他のクラスメイトもほとんど気付いていないだろう彼女の姿に、少しだけ新鮮な気持ちを感じる。

 そして辿り着いた部屋で、彼女は部屋から出てきた眼鏡をかけた小太りの男性と会話を始めた。なんかイベントの日にプレゼント配ってそうだな、この人。

 すると奥から方まで伸びて顔の見えない、自分よりも年下に見える男の子が現れて、リンドグルツさんに耳打ちで何か伝えている。

 すると彼女はぶんぶんと手を左右に動かし、「違う違う」という意思表示をしていた。いつも静かな彼女がそんな振る舞いをするのは初めて見たし、一体何を聞かれたのだろうか。


 髪の長い男の子は荷物を持って帰って行き、小太りの先生は職員用と思しきデスクに移動し、俺は部屋の奥、オレンジのソファーと白い机が置いてある部屋に誘導された。

 「えと、ここって……」

 「カウンセリングルーム。さっきのカウンセリングの先生にお願いして、勉強に使っても良いか聞いてみたんだよ。ここなら人も来ないし、静かだし、ボストン君の要望に合ってると思って」

 ……俺の要望に応えるためにここまで来て、先生に許可まで取ってくれたんだ。優しいんだな、リンドグルツさんって。

 

 「さあ、どこが分からない?教えて?」

 「あぁ!ええっと……」

 ソファーに座り、リュックから勉強道具を取り出しながらそう尋ねるリンドグルツさんに、俺も慌てて着席し、歴史の教科書やノート、ワークを取り出し始める。

 物静かで頭の良い印象しかないリンドグルツさんだったけど、この短時間の間で、優しくて面倒見の良い一面を知った。さあ、勉強嫌いだけど頑張るか。


 

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