私の日常
意識の遠くからリズミカルな電子音が鳴り響き、ゆっくりと目を開ける。
横向きの体勢からゆっくりと起き上がり、辺りを見渡すと、目の前には白い壁や勉強をしたりする際に使う勉強机、私服の入ったタンスと、勉強机の目の前にある窓から部屋に入って来る朝の光が目に入った。
高校入学と同時に学生寮での生活を始め、つい最近3年生に進級したので、この寮での生活も3年目になるのだが、長い間落ち着いて眠れない環境で過ごしてきた為か、一人で落ち着いて眠れて、落ち着いて起きる事が出来るという、全く珍しくも何ともないこの状況に、私は今も慣れない。
なので、こうして朝目覚めると、そんな平穏な状況を確かめるかのように辺りを見渡してしまう癖がある。
ベッドの横に充電してあったスマホを確認すると、スマホはリズミカルな目覚まし時計のアラーム音を鳴らしながら、画面に最近学生寮の近くに咲いていた桜の写真の待ち受け画像と、4月20日、7:01という今日の日付と時間が表示されていた。
アラームを止め、壁に掛けてあった制服を手に取り、パジャマから着替える。赤いリボンに白いシャツ、紺のブレザーというデザインで、左胸の辺りには私が今通っている聖カタリナ学園の校章が描かれている。
高校入学前はこの制服を可愛いと思っていたのだが、3年生にもなると「季節の変わり目に着ると暑いな」とか「冬になると静電気でボトムスが脚にくっついたりするのが嫌だな」といった文句に近い事を考え出したりする。高校生活に慣れてきたが故のあるあるだろうか。
着替えている途中、顔を洗っていない事を思い出し、濡れないようにブレザーをいったん脱いで洗面所へ向かう。100円ショップで購入したクリップで前髪を留め、目の前にあった鏡を見ると、焦げ茶色の少し癖のあるセミロングにクラスメイトから「リンドグルツさんって、色白いよね~」と言われた白い肌が目に入る。
そういえば、と思い、もうあまり覚えていない幼少期の記憶を掘り返すと、幼少期に一緒に過ごした母親とは顔が似ていなかったのはもちろん、地毛の色も違う色だったのを思い出した。
夜空みたいに真っ黒な綺麗な黒髪に、気は強そうだが美しい容姿をした母親の事を思い出し、胸に針が一本チクリと刺されたように痛くなった。
…こんな時にどうして母親の事を思い出すんだろうと思いつつ、急がないと学校に遅刻すると気付き、洗顔フォームを使って急いで洗顔し、焦げ茶色の髪をポニーテールに束ねてブレザーを羽織りながら、1階にある食堂へ向かった。




