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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第4章 芸術の都・ケルンセン
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ケントの優しさ

 「お、メリッサ。おかえり」

 集合場所である帽子屋の前へ行くと、そこには既にケントが建物の壁にもたれかかりながら待機していた。

 「うん。もしかして待っててくれた?」

 「ううん。俺もついさっきここに来たばかりだし」

 そう言うとケントは壁から背中を離し、そのまま二人で並んでセレーネの家へと歩き出した。

 

 「「……」」

 ……あぁ、やっぱり決まずいなぁ。さっきは一旦距離を置けば気まずさもなくなるだろうと思っていたけれど、どのみち顔は合わせるし、結局のところ私のこの余計な気持ちを解消しない限り、この空気感にはなってしまうだろう。私の考えが浅はかだったし、イザベラさんも言っていた通り、頭が悪いかもしれない。

 それからあともう一つ。


 「……」

 ケントがさっきから何故か、私のことをじっと見てくるのだ。

 じっと見てくるといっても、顔をこっちに向けてガン見してくるのではなく、目線だけ私の方に向けてくるといった感じだが。

 気まずい空気にじっと見られるという、その何ともいえない空気感に堪え切れなくなり、私はついさっき思いついた無難な話題を振ってみることにした。

 

 「ケント、紅茶の茶葉って何買っ……」

 「メリッサ、何で前髪が乱れてるの?」

 ケントはそう言うと私の隣から目の前に回り、私の前髪に触れてきた。驚いた私は歩みを止めた。

 「へっ?前髪?」

 想定外のことを聞かれてしまったので、一瞬頭が回らず硬直する。

 「うん。いつも綺麗に整ってるのに、何でこんな……誰かに掴まれたみたいにぐちゃぐちゃになってるの?」

 ケントは不快感と不信感、心配が混じったような、見たことのない表情で私の目を見ながら、優しい手つきで前髪を梳かしてくれた。

 その手つきに私は、ついさっきイザベラさんに前髪を掴まれたことを思い出した。

 ……しまった。ケントとの待ち合わせに遅れないことばかり考えて、髪の毛のことなんて考えになかった。


 「えーっと……。ケントとの待ち合わせに遅れたくなくて、それで急いで走ったらこうなって……」

 「急いで走った?さっき来た時は早歩きくらいだったのに?それも髪の毛が乱れないくらいの速さだったのに?」

 「……」

 どうしよう、この人の前じゃ嘘も何も通用しない。もっとマシな嘘はなかったのかと、言った後で後悔する。

 「……俺には話したくない?何があったのか」

 「え」

 気まずさから下に向けていた目線を上げると、そこには少し悲しそうな表情をしたケントがいた。今日は初めて見るケントの表情ばかりだ。

 

 「……メリッサと出会ったのはアデルやナディアより先なのに、今は二人の方が信頼してるの?二人の方が話しやすいの?メリッサにとって嫌なことがあったなら、俺は……」

 「俺は……」の後は声が小さすぎて聞き取れなかったけど、こんなに弱々しい感じのケントはある意味初めて見たかもしれない。

 「あ、えっと……。ケントのことはもちろん信頼してるし、その気持ちはアデルやナディアへの気持ちと天秤にかけるようなものじゃないよ。みんな大切だし、信用してる。あと、これは別に特段変な目に遭ったとか、酷い目に遭った訳じゃないから、そこは心配しなくても大丈夫だよ」

 私のその言葉に少しだけ安心したのか、ケントは「そう……」と呟き、そのまま私の両肩に優しく触れながら、自分の額を私の額にくっつけてきた。

 

 「あー……と、ケント?ケントさん?」

 「……」

 そう呼び掛けてもケントは無反応だ。通り過ぎる人々の視線が少しだけ恥ずかしい。

 三十秒くらいこの状態でいると、ケントはゆっくりと額を私から離し、「……ごめん、行こうか」と言い、そのまま歩き出した。私もそれに付いて行く。


 最近はっきりしない態度ばかり取っているのに、ケントは優しいな。

 ケントときちんと向き合いたいと思う反面、私の弱い部分に対するコンプレックスも膨張していって、それがさらに自己嫌悪へと繋がってしまう。

 ……そういえば、さっきイザベラさんに「あなた気付いていらっしゃらないの?」と言われたけれど、一体何にだろう。

 どうも私の周りにいる人は、一番肝心な部分や知りたいことをピンポイントで教えてくれない。鈍感な私には、なかなかの難題だった。

 

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