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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第4章 芸術の都・ケルンセン
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悪い予感

 翌日。

 街にあった宿で一晩休んだ後、私たちは今後の旅の計画を立てるのも兼ねて、四人並んで街を適当にぶらぶら歩いていた。


 「ねぇ、これからどうするのー?」

 「どうする……って、これが正直、今一番悩ましいところなんだよな……」

 アデルが歩きながら眉間にしわを寄せ、考え込むような表情を作る。

 そうなのだ。昨日から私たちが悩んでいることの一つ。「これからどこへ向かえば良いか」という点。


 今までは自分達の前に立ち塞がる敵を倒したら、何か未だによく分からない赤い宝石が敵の身体から現れて、その宝石が出す光の指し示す方向へ旅をしていたのだが……。


 今はまだ、その赤い宝石を持っている人が分からない上に、私たちを襲ってくる人がいない関係からこれから進めば良い場所が分からずにいた。

 というかあの赤い宝石、一体何なんだろう。当たり前だけど、人間の身体の中に宝石があるなんていう状況がそもそも異常だし、光を発してどこかしらの方向を指し示したり、持ち主の身体を灰と化してしまうなんて、一体どういうものなんだ。


 それと、私たちはかなり短い期間で運良く宝石の所有者と遭遇しているなと思う。

 だから途中で旅が行き詰まったりすることもなく、この短期間の間で二つの国を移動したのは、なかなか運が良いと思う。

 けれどもだからこそ、早くあの宝石がどこにあるのかを知りたいところだ。旅とはいえ、一つの場所に長く滞在しすぎるのも良くはない。


 どうしたものか……と思っていると、もうすぐ通りかかろうとしていた広場の辺りがざわついているのに気が付いた。

 広場には老若男女問わずたくさんの人で溢れかえっていて、あまりの集まりように私は高校の学園祭みたいだなと思った。

 とりあえずあの人だかりの正体が何なのか気になり、人酔いしそうになるのを我慢しながら人混みを掻い潜ると、私は目の前にあった光景にぞわっと血の気が引いた。


 血の気が引いたといっても、そこには殺人事件の現場があったとか、遺体があったとかそういったものではなく、あったのは何の変哲もないあのゴシップ記事の掲示板だったのだが……問題はその内容だった。

 

 内容を簡単に言うなら、セレーネがマネージャーと交際していることと、音の精霊の力を持っているというものだった。

 単なる交際であれば基本的に何も言われることは無いし、精霊の力の考えがこの国に浸透しているのであれば、特に問題なさそうな内容なのだが……私が唖然としたのはその記事の書き方だった。


 セレーネはこれまで財閥の御曹司や資産家といった、経済力のある男性と派手な関係を持ち続け、自分の欲望に従うままに、ファンの気持ちも考えずに恋人を作ってきたが、結局選んだのはマネージャーという自分より低い立場にいて自分に従順な弱者男性を選んだということ、高い実力を持った歌姫とされているが、それは全て音の精霊による偽りの力で、真の実力ではないこと、これまで努力も一切せずにこの地位まで上り詰めたというものだった。

 記事の横には一体いつ撮ったのか、セレーネとマネージャーのジャンさんが二人でどこかのパン屋さんへ入っていく写真が載せられていた。


 この内容をざっくりと読んで、私は内容もそうだが、どうしてこのことがばれてしまったんだと思った。

 セレーネはマネージャーと交際している。それは本当のことだし、悪いことではない。けれどもセレーネはこのようなプライベートを仕事に影響させるような人ではないし、会う時も人気や周りの状況をしっかり確認していた。

 おまけにセレーネの精霊の力。セレーネ本人が自覚しているのかすら分からないような内容を、どうして第三者に気付かれてしまったのか。


 そして何より、こんな内容の記事、完全な想像だけでは書けないような部分もあるので、恐らく情報を提供した人がいる。

 こんな情報を提供できるということは、セレーネの身近にいる人?それって一体……。

 「はっ!何がケルンセンの女神だよ、こんなアバズレ!」

 隣から発せられたその言葉に思わずびくりとして、反射的に顔を隣へ向ける。

 「んぁ?何だ嬢ちゃん、嬢ちゃんもこの歌姫のファンか?」

 隣にいたのは一体何サイズなんだと言わんばかりのチェックのシャツに、これまた何サイズなんだと言わんばかりのカーキのズボンを履いた、肥満体の禿げたおじさんだった。

 「今まで歌が上手くて見た目もべっぴんの上玉だから、仕方なく応援していたけどよぉ」

 「……」

 「やっぱり簡単に男と付き合うのは駄目だなぁ。下品だ下品。それに、あの実力も精霊の力なら、俺達はその精霊に貢いでたようなものだし、顔だってよく見れば化粧で誤魔化してるだけの不細工じゃねぇか」

 

 ねぇ、ちょっと、やめてよ。今頭の中でいろんなことを整理してたのに、さらに気味の悪い話し方で私の心を乱さないでよ。

 怒りや悲しみ、不安や心配が極限まで高まり、思わず俯いた私に、男性はさらに近寄って来た。

 「ん~?嬢ちゃん、具合悪ぃのか?顔真っ青だぞ。……具合悪いなら、俺が良くする方法知ってるからさ、俺と一緒に……」

 鼻息を荒くしながら私の肩に触れてこようとしたその手は、次の瞬間に身体ごと吹っ飛び、その勢いで掲示板も破壊してしまい、掲示板の奥にあった花壇に勢いよく叩きつけられた。


 「え……」

 何かと思って顔を上げると、そこには怒りの表情を浮かべたナディアが立っていた。多分ナディアが持ち前の怪力であの男を吹っ飛ばし、私を助けてくれたんだろう。

 「何も知らないのに適当なこと言うなバ―――――カ!そんでその勢いでよくも私の友達に手ぇ出そうとしたな―――――――!」

 ナディアはおじさんに向かってそう叫ぶと、「メリッサ!行こ!」と私の手をぎゅっと握り、そのまま強引に人の波を掻い潜ってその場から逃げた。


 

 ナディアに手を引かれて人混みから少し離れた場所に、ケントとアデルが立っているのが確認できた。

 「あっ!お前らまた何やって……」

 「説教は後で聞く!今はここを離れよう!」

 「はっ!?」

 ナディアはアデルの手も引くと、そのまま猛スピードでその場を走り抜けた。ケントも一瞬何だ何だという表情をしたが、すぐに私たちに付いて来るように走り出した。


 「おいナディア!これどこに向かってるんだよ!」

 アデルがナディアに向かって叫ぶように聞く。そりゃそうなるだろうし、ナディア、走るのがめちゃくちゃ速い。

 「分かんない!でもとりあえず、人のいない場所に!」

 「はぁ!?」

 これから向かう場所……向かわないといけない場所……。そこまで考えて、私は思わず息を呑み、私の手を引いていたナディアにこそっと耳打ちをした。

 

 「え……!?」

 ナディアは走っていた足を止めた。走り過ぎて、もう人がほとんどいない、一体どこかも分からない場所まで来ていた。

 耳打ちした内容はこうだ。





 「ナディア、セレーネの家へ行こう。そこで、セレーネと話し合おう」

 

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