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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第4章 芸術の都・ケルンセン
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歌声の秘密

 アデルのその一言に、一瞬だけ頭が真っ白になる。真っ白になるといっても、絶望とか失望とかではなく、純粋に驚いたというか、言葉が出ないという表現の方が正確だろうか。

 私は目を見開きながら、アデルに確認を取る。


 「え、精霊の力って……みんなが持ってる?」

 「ああ。俺達が持ってる、だ」

 アデルは私の質問を肯定した後、「本人の口からそうだって言われてねぇから、間違いないとはまだ言えねぇけどな」と補足をした上で、自身の見解を述べ始めた。


 「疑問に感じたのはあの歌姫の歌を聴いた時だよ。あの時俺は、俺達を変に睨んできた妙なおっさんどもからのネチネチした視線にイラついてたんだよ」

 ……あぁ、あの時のことは覚えてるよ。アデルってば、あのお客さんたちからの睨みに対して、それよりも鋭い目で睨み返すから、お客さんたちはライオンに睨まれた蛙の如く怯んでたな……。

 自分たちのことを悪く言ったり、ひそひそねちねちと眺めてくる人については、大体は放っておけば良いのだが……。そこで倍返しにしてしまうアデルは、何ともアデルらしい。

 「そんでイラついてた時にあの歌姫の歌を聴いたんだが……。びっくりしたよ。歌声を聴いた途端、さっきまでのイライラした気持ちが清水で洗い流されるみたいに、きれいさっぱりなくなってたんだからよ」

 

 アデルにそう言われて、私は公演の時のことを思い出す。

 確かにあの時聴いた歌は、今まで聴いてきたどの歌よりも上手だった。音楽的なことは全く詳しくない私だけど、それでも聴いていてすごく心地良かったし、幸せな気分になった。

 歌手というのは、ここまで素晴らしい力を持っているのかと感動したが……。けれどもそれがどうして、精霊の力と繋がるのだろうか。


 「普通、歌を聴いただけで不快な感情を消し去るなんて芸当はできねぇよ。いや、できるかもしれねぇが、それは完全に消し去ってるんじゃなくて、あくまで一時的なものというか、ある程度の心理的負担を軽減するだけで、根本的解決にはなってねぇんだよ。けどあの歌姫の歌を聴いた時、あの時イラついてたのが何でか忘れるくらいに……いや、不快な出来事を丸々忘れてしまいそうな勢いで、頭の中や身体がふわふわと浮いたような感覚に陥ったんだよ」

 ……言われてみれば確かに。音楽は娯楽の一種であって、しんどいことや辛いことがあった時、一種の陣痛剤のような役割を持っている部分はあるが、だからといって音楽を聴けば何でもかんでも解決するという訳でもない。そう考えると、私のさっきまでの考えも少し誇張した部分があったかもしれない。


 「これは俺だけかと思って周囲を確認したら……。さっきまで俺達を睨んでたあのおっさんどもも、周りの観客たちも、あとメリッサもナディアも同じような感覚に陥ってた。ケントに至っては寝てたしな。気持ちよかったんだろうな」

 「あれ、アデルお前見てたの?」

 ……え!ケントが公共の場で寝ちゃったの!?ちょっと見てみたいかも……。ケントの居眠り……。

 その場にいた全員が同じような感覚に陥ったというのも驚きだが、あの飄々としていて隙を見せないケントが堂々と眠ってしまうくらいには、強力な力があったのだと分かった。

 みんなの反応も驚いたが、ケントのこの反応からして、セレーネが何かしらの力を持っているのだということは確信できた。


 「うん。セレーネが強力な力を持ってることは分かったけど……。何の精霊の力なの?何かどの力にも当てはまってない気が……」

 「これは完全に俺の予測だが……音の精霊の力を持ってるんじゃないかと思うぜ」

 ……音の精霊。またしても初めて聞く精霊の力の名前を、私は心の中で復唱する。

 「音の精霊は、俺の複数の精霊の力や、ナディアの力の精霊の力と同じで、低確率で生れてくる特殊な精霊の力だ。音の精霊は攻撃的な力は一切持っていないがその代わりに、使用者に絶対音感や圧倒的な歌唱力、表現力を与える……ま、歌手にとっては大きな武器になる力だと思えばいいぜ。んで、そんな力に加えて、使用者の歌声には聴いた者の心を浄化させたり、果物をより甘くしたりする、一種のヒーリングや魅了に近い力を持ってる。だから俺達は……音の精霊の力の良い効果に直面したってことだが、まさかそんな希少な精霊の力の持ち主とこうやってご対面できるとは、運っていうのは分からないもんだぜ」

 「……なるほど」


 セレーネがそんな力を持っているとは驚いた。いや、まだ確定事項ではないので、あまり強くは言えないけれど。それに……。

 

 「セレーネって、音の精霊の力に気付いてる?」

 そう。これが一番気になった。

 普通そんな強力な精霊の力を持っていれば、上手く活用して荒稼ぎしそうなものだが……。何かセレーネの振る舞いを見ていても、そんな風に力を悪用しようという空気が感じられなかった。

 

 「多分だけど、気付いてねぇんじゃねぇの?そんな雰囲気なかったし。それに、力があろうがなかろうが、俺達とあの歌姫の関係性に何かヒビが入る訳でもねぇだろ?」

 ……うん。それは確かにそうだ。精霊の力があろうがなかろうが、セレーネはセレーネであることに変わりはない。

 今日は良い経験ができたな。そう思いながら、私たちは今日泊まる宿を探すことにした。










 「……」

 

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