お姉さん歌姫
セレーネに中に入るよう促され、楽屋にお邪魔させてもらう私たち。
さっきは確認できなかったけれど、ドレッサーの上にはリップやファンデーション、香水といった化粧品がドレッサーを埋め尽くすくらいたくさん並んでいて、部屋の中には恐らくその化粧品のものと思われる甘い香りで満たされていた。
他にも煌びやかなドレスや種類豊富なアクセサリーなどがたくさん置いてあって、おしゃれが大好きなナディアは、目の前に広がる光景に目をきらきらと輝かせていた。
「ナディア……テンションが上がるのは分かるけど、今はお邪魔させてもらってるから」
「あっ!ご、ごめんなさい。セレーネさん。私おしゃれが大好きでつい……」
しゅんとしながらセレーネに謝るナディア。ナディアは気がとても強いが、それと同じくらい素直な心の持ち主なので、自分が悪いことをすれば素直に謝罪する柔軟性がある。その点は私も見習わないといけないと思う。
「全然!あ、そんなに気になるなら、あんまり使ってない化粧品もあるし、良かったら貰う?」
……そしてセレーネは、私の想像を上回るくらいに寛容だ。
セレーネと私が隣同士で座り、その向かいのソファーにケント、アデル、ナディアの3人が座る。
「それじゃあ、改めてはじめまして。私はセレーネ・コストナー。このケルンセンで歌手のお仕事をさせてもらっていて、メーちゃんとは、私が困っていた時に助けてくれて、その時仲良くなったの」
「……驚いたね。まさかメリッサが、本当にこの国の歌姫と友達になってたなんて」
「うん……。最初はちょっと冗談かなって思ってたんだけど、まさかほんとに友達だとは思わなかったな」
ケントとナディアが、未だに私とセレーネが友達だというのを信じられないといった反応をしている。
「私、今までいろんな人と出会ってきたけど、メーちゃんは初めて出会った時から、この子はすごく優しくて、あったかい空気に満ちてるなぁって思って。それで、メーちゃんとお友達になりたいと思って」
「あ!それは分かります!メリッサ、すごく優しい空気感の持ち主ですよね!」
……ん?
「性格って雰囲気に現れるよね。実際、子どもみたいな警戒心の強い子にも好かれやすいし」
……何これ、どういう話?
「そうそう!あっ!それなら、みんなが知ってるメーちゃんのこと、たくさん教えてくれない?」
するとケントとナディアは、私が小さい頃から武術をやっていて、危険生物に臆することなく戦えることとか、スタイルがもの凄く良いこととか、聞き上手で思いやりの気持ちが誰よりも強いこととか、頭が良くて教養があるといった、何か私の良い所を出しまくる会話をしていた。
「あとメリッサは、何をするにも一生懸命で、そんな所を私はすごい尊敬しますし~……」
「ちょ、ちょっと……」
私の小さな声に、3人が同時に私の方を向く。
「そ、そんなにストレートに褒めないでほしい……。私、あんまり褒められ慣れてないから……」
……どうしよう。顔が、耳が、首が、全身が熱くて沸騰しそうだ。近くに鏡があるからそれで確認したいところだけど、確認したらそれはそれで、赤くなった姿に自分でドン引いてしまいそうだ。
「えぇ!メーちゃん可愛い!メーちゃんの可愛いところって凄い貴重だよ!大丈夫大丈夫!」
セレーネが隣から私をよしよしと抱き締めてくる。そういえば、セレーネって私より年上なんだった……。この明るい振る舞いからどうしても年上だと感じられなかったが、こういう誰かを可愛がれるというところは、あぁ、年上の女性なんだなと感じる。
「……というか、メリッサのことが知りたいなら、メリッサとしばらく過ごしたらどうっすか?」
少し低い声でそう言ってきたのは、何故か今になるまで全く口を開いていなかったアデルだった。
「俺達は外で適当に待ってますし、メリッサと一緒にいたいなら、全然借しますよ」
アデルの敬語、久しぶりに聞いたかも。そう思っていると隣にいたセレーネは「いいの!?」と嬉しそうな声を上げた。
「じゃあ、あんまり遅くに帰さないって約束するから、メーちゃんのこと借りるね?メーちゃんもいいかな?」
「え、うん、まあ……」
嫌では全然ないし。まぁいいかな。そう思って私もこの誘いに了承し、ケント達とは街の広場でまた合流しようということになった。
……あとこれはどうでもいいかもしれない話だが、さっきの男性が、楽屋の入り口付近にSPみたいな感じで待機していた。
本当にこの人誰なんだ?セレーネもセレーネで言及しないし。妙に膨らんでいく疑問と一緒に、私とセレーネ、あとこの男性の3人が、楽屋に残された。




