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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第4章 芸術の都・ケルンセン
173/215

他を寄せ付けない歌姫

 明後日。私たちはこの街の劇場2階にある特別席にて、これから行われる歌姫の公演開始を待っていた。

 ちなみにあの後、私は急いで仲間たちの元へと戻ったが、きっと私を心配してくれていたのであろう仲間たちに「何でこんなに遅くなったのか」とか「また変な奴に絡まれたのか」といった風に問い詰められ、アデルに関しては後ろに般若が見えてしまうくらいには怒っていた。

 

 とりあえず変な目に遭った訳ではないことだけを説明し、それに加えてひょんなことから歌姫と仲良くなり、公演のチケットを貰ったということを伝えたところ、メンバー全員が行きたいと乗り気な様子だった。

 ……それにしてもこの2階席、妙に落ち着かないなぁ……。1階席は赤いふわふわの椅子が何百個も連なっていて、観客も雰囲気も映画館みたいなラフさがあるのに、Uの字型になった2階席はやたら豪華なソファーだし、多分10組もないくらいしか席が無いし、しかもそこに座っているのは豪華な服装を着た偉そうな大人たちだけだ。

 その大人たちも、ラフな服装をした20歳以下の男女4人組という妙な来客を、怪訝そうに見てきたり、「場違いだろ」と言わんばかりの視線を送ってくる。

 

 けれどもナディアはそんな幼稚な嫌味の視線は気にしない性質だし、アデルは逆にこういった雰囲気に慣れているのか、脚を組んで天井のシャンデリアや豪華な調度品を観察したり、何ならその大人たちを睨み返したりといったことをしていた。

 ケントもケントでいつも通り落ち着いているし、こんなに人の目を気にするのは私だけか?と思ってしまう。


 そうこうしているうちに、開演を知らせる音が劇場内に響き渡り、会場のライトが落とされて辺り一面が徐々に暗くなっていく。

 すると私の視線の左斜め下にあるステージから、ゆっくりと誰かが現れた。

 その人はオフショルダーの黒いマーメイドラインのロングドレスに水色のロングヘア―をウェーブに巻き、首や耳には一体いくらするんだと言わんばかり豪華なアクセサリー、足元には黒いヒールを履いている。

 メイクも綺麗に施していて、その他を寄せ付けないような空気感とカリスマに圧倒されていると、頭の中の記憶と記憶が結びついて、この人が誰なのか瞬時に理解する。

 「セレーネ……」

 よく芸能人でオンとオフの差が激しい人がいると聞いたことがあるが、セレーネはその最たる例なんじゃないだろうか。

 何せこの間見た姿とは雰囲気の時点で違う。前に会ったのは明るくて良い意味で子どもっぽい人だったが、今目の前でステージに立っているのは、セレーネとは違う誰かが憑依したような、そんな感じの人物だったからだ。

 

 セレーネが現れてしばらくしてから、楽器を持った十数人の人がステージに現れ、パフォーマンスを始める。

 そしてセレーネが歌い始めたその瞬間、私は無意識の内に硬直した。

 何せ、人間の歌声とは思えないほどの心地良い感覚が身体を包み込んできたからだ。歌い方や曲の雰囲気、楽器演奏者たちの感じからして、ジャンルはジャズか何かだろうか?

 正直な話、私は音楽自体はそこまで詳しくはない。何が上手い基準なのか全然分からないし、ピッチとか音色とか、はたまたクレッシェンドみたいな音楽用語なんて意味すらよく分かっていない。

 だからテレビで歌手の歌唱を見ても、何が上手いのか下手なのか、それすら分からなかったが……。この人は違う。

 

 音楽に全く詳しくない私でも、直感で上手いと、この人は別格だと本能が叫んでいる。しかもさっきまであの大人たちに睨まれてマイナスな気分だったのに、今はそんな気持ちがどこに行ったのだろうと言わんばかりに心が落ち着いていて、幸せに満ちている。

 2階席で見ていた大人たちも、うっとりとしたり何かに浸っている感じだった。

 

 感じたことのない感覚に圧倒されていると、いつのまにか公演は終わっていた。

 一応、時間だけなら2時間は経過して、セレーネも一曲だけではなく十数曲は披露していたそうだが、そんなもの考えられなくなるくらい聴き入っていた。

 「ふえぇ~。すごい感動したよ~。コンサートって私初めて見たけど、こんなに楽しいものなんだねぇ」

 ナディアが目を大きく見開きながら、キラキラとした目で今回の感想を口にする。それは私も同じ気持ち、と思っていると、2階席の入り口から眼鏡をかけた明るい茶髪のマッシュルームヘアの、少し地味な感じの青年が入ってきて、私たちの元までやって来た。


 「ん……?君は誰?」

 ケントが少しだけ警戒した態度で質問する。

 すると青年は私の姿を少し見ると、こう言ってきた。


 「メリッサさん……ですね?実は、セレーネが公演後にあなたとお会いしたいと言っていまして……」

 

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