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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第4章 芸術の都・ケルンセン
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歌姫との散策

 私が貸したヘアゴムで髪を纏め、マスクと帽子で歌姫としてのオーラを消したセレーネと一緒に街を歩く。

 さっきまで箱の中に隠れていたのに加え、少し童顔であどけない印象もある顔立ちの関係で、勝手に背が低いという印象があったが、こうして横に並ぶと身長は意外と高い。私よりかは低いが、ナディアよりかは高い。あとこの格好もあって、両手にチョコクロワッサンの入った紙袋を大事そうに抱えているのが少しシュールだ。

 あと露出の少ない服装ではあるけど、この人めちゃくちゃ細い。よく芸能人は体形管理が厳しく、摂食障害や拒食症に陥りやすいという話を聞いたことがあるが、まさかこの人もそうなんだろうか?でも細いけど不健康な印象はないので、その辺りは尚更分からない。


 「ねえ、あなたはどこの国から来たの?」

 「……っへ?」

 まさかこの人から話し掛けられるとは思っておらず、反応がワンテンポ遅れる。セレーネは顔を見上げ、私の目をじっと見ている。

 「他の国から来たって言ってたけど、一体どの国から来たの?」

 「あぁ、ええと……。アラクです。アラク。ここから南西の方の島国です」

 この説明、過去に何回かやったことあったな、と思いながら自分の故郷のことを伝える。けれどもその後の反応は、私の想像の軽く右斜め上を行くものだった。

 「アラク?そんな国があるんだねぇ。私初めて聞いたかも。行ってみたいなぁ」

 

 ……え。この人、アラクを知らないのか?言い方は悪いが、少し勉強が苦手なナディアでもアラクの存在は知っていたし、何なら鎖国制度を行っていて、今この場にアラクの住人がいるということ自体なかなか異常事態だということも分かっていたのに。

 私の軽い動揺をセレーネは気付く素振りもなく、その後も歳はいくつか、好きな食べ物は何か、趣味は何かといった話になった。

 

 話の中で分かった情報はこうだった。

 セレーネ・コストナー。年齢は22歳で、職業は元々知っている通り、歌手。

 ……この人、私より年上だったのか……。何かそんな風に見えないくらいには天真爛漫……もとい純粋そうだけど。

 チョコクロワッサンとお忍びショッピングが好きで、今回の公演の合間を縫ってあのおじいさんのパン屋さんへ買い物へ行っていたそうだが、その際運悪くファンの集団に見つかってしまったそうだ。

 そのファンたちから逃げていた際、運よく隠れられそうな路地裏を見つけ、そこへ入ろうとした時にそこから出ようとした私とぶつかった、というものだったらしい。

 ……なるほど。だからあの時妙に焦っていたのか。芸能人というのも大変らしい。


 「ねえ、あなたは何歳なの?」

 「18歳です。一応学生です」

 「18歳!?何だかすごく落ち着いてるねぇ。私なんてもっと落ち着きを身に付けろ!っていろんな人に言われてるのに」

 「……そうなんですか?でもその無邪気さが、話していてすごく楽しい気持ちにさせてくれるのに」

 「……本当?ありがとう。そんな風に言ってもらえたの、久しぶりかも。嬉しいなぁ」

 マスク越しからでも分かる嬉しそうな表情を、セレーネは浮かべる。

 ……何だろう。この人、街の人が話していた感じとは全く違う。もしかして、あの話の内容もあの週刊誌もどきも、全部デマなのだろうか?それに……。


 「メリッサもチョコクロワッサン好きなの?」

 「あっ、はい!チョコクロワッサンとか、ああいう甘い菓子パンが大好きで!」

 「私も大好き!あれを考えた人はもう一周回って罪だよねぇ」

 「そうなんですそうなんです!」

 「趣味はどんなことが好き?」

 「えと、小説を読んだりするのが好きで……だからたまに、地に足が着いてないなんて言われることもありますね……」

 「私も小説よく読むよ!想像力を磨くのにいいんだよねぇ。それに大丈夫だよ!私なんて想像のしすぎで壁に頭をぶつけたりするし」

 

 ……あぁ、やっぱり。この人が歌手としてどれだけの才能を持っているのかは分からないけれど、感性は普通の女の子そのものだ。

 高圧的な感じも、傲慢な感じも、高飛車な感じもない。おっとりとした明るさと優しさに満ちた、柔らかい空気を纏っている。

 人の悪意には敏感な私だけど……。この人は多分、いや間違いなく良い人だ。それも私が出会ってきた中でも特に。何ならあの時この人の悪口を言っていた女性たちの方が、どす黒くてチクチクしたオーラを纏っていた。

 

 「あっ!着いた!ここだよここ!」

 あれこれ話しているうちに、街の高級ホテルへと到着した。チョコレートみたいな色のレンガ造りの大きな建物で、何だか小説の中の大統領とかが住んでいそうだ。

 「ねぇ、ここまで歩いて喉乾かない?ここまで守ってくれたお礼もしたいし、部屋に上がって!それに、メリッサとはもっとお話ししたいし!」

 ……これは。まだケントたちの元へと戻れそうにない。もっといい言い訳を考える必要があるなと思いつつ、私もこの人とはもう少し話してみたい。

 言い訳の内容を考えつつ、私はホテルの中へと入っていった。

 

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