お兄さんとの再会
「やっ、また会ったね。お嬢さん」
愛想の良い笑顔を私達に向けながら、あの時のお兄さんが手を振りながら立っている。
「…えっ、何で…」
…突っ込みどころが多すぎて、どこから突っ込んだら良いのか分からない。目をパチパチさせながらお兄さんを見ていると、ヘンリーが私に呼びかけてきた。
「この人さ、先週くらいからよく俺達と遊んでくれる人なんだ」
「…へー、そうなんだー…?」
動揺を隠せないまま、無難な返事をしておく。
「昨日も会ったねぇ。あの後は大丈夫だった?」
「…えっ、あぁ、はいっ。大丈夫ですっ」
突然声を掛けられたので、間抜けな返事になってしまった。
…え?何でこんな治安の悪い所にいるの?しかも、警戒心の強いこの子達が心を開いてるって、どういう事?てか、このお兄さんは何者…?
様々な考えがぐるぐると頭の中を走っていると、ヘンリーが衝撃的な事を言ってきた。
「え、もしかして2人って付き合ってる?」
「全然違う」
何でこの年代の子達はちょっと会話してるだけで「付き合ってる?」に繋がるんだ。思わず即答してしまった。異性同士の絡みに敏感なのは、小学生も高校生も関係無いなと思った。
「ははっ。恋人に勘違いされちゃったね。あと否定の速度が速いね」
笑いながら私の隣にお兄さんは腰掛けてきた。
「いや本当の事でしょう…。何でそんな冷静なんですか」
「こういうのは真剣に受け止めたら疲れるじゃん。だから、適当に流しとくくらいで丁度良いんだよ」
…真剣に受け止めたら疲れる。まあ、それは確かにそうだ。高校の男女関係の話の敏感さを思い出すと、確かにと感じる。
以前、クラスメイトのレイ・ボストンにテスト勉強を教えた事があったけど、その時の女子の目がとにかく怖かった。しかもテストが終わってからもちょくちょくレイ・ボストンは話しかけてきたので、しょっちゅうクラスの女子に「付き合ってる?」と聞かれるようになったので、もう私の中で「付き合ってる?」には「違う」と答えるようプログラミングされているに近かった。
「メリッサっていうんだね。名前。さっきの会話聞こえてきたけど」
「ああ、はい。メリッサです。メリッサ・リンドグルツ…」
「メリッサって良い名前だよね。確か…」
…メリッサが良い名前?…正直、私はこの名前があまり好きではない。子供時代のあの出来事を思い出してしまうから。
「レモンバームの別名、だよね?」
「え?ああ、はい…そうですね…」
「へえ、レモンバームって、気分を落ち着かせたり、頭痛とかの痛みを和らげる癒しの効果があるからさ。
多分、この子達にとってのメリッサもそんな存在なんじゃないかな」
…癒し?ヘンリー達にとってそんな存在?
「…どういう事ですか?それ…」
「え?だってヘンリー達、メリッサ達といる時の表情が本当に落ち着いてたんだもん。俺といる時はもうちょっとやんちゃなのに」
「やんちゃは違うだろー!」
ヘンリーが反発する。
「…この子達はさ、この環境もあって幸せを感じ辛い境遇にいると思う。でもメリッサといる時この子達の表情が落ち着いていて幸せそうだからさ、本当にレモンバーム…メリッサみたいだと思ったんだ」
胸にじんわりとあったかいものが広がっていく感じがした。
癒し…存在…。私の中に完全に無かった考えで、思わずぽかんとした。
でも、嬉しかった。
みんなにとってそんな存在でいられるなら、私は幸せだし、あの過去も、私の中で少し和らいだ気がした。




