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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第4章 芸術の都・ケルンセン
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セレーネ?

 「え?セレーネ?」

 女性の名前だろうか。初めて聞く名前に、思わず疑問の気持ちの入った口調になる。

 私のよく分かっていないという表情を見て、子どもたちのうちの一人は「あっ!」と何かに気付いたような反応をした。

「そっか!お姉ちゃんたちは他の国から来たから、セレーネのこと知らないんだね!」

 子どもたちは得意げな表情になると、この「セレーネ」という人について教えてくれた。


 まず、このケルンセンは別名「芸術の都」と呼ばれている。

 歌やダンス、絵画や陶芸など、ありとあらゆる芸術の文化が発展した国であり、この国の人間は立場や身分関係なく、生まれた時から芸術に親しむ。

 さっきは街の雰囲気に圧倒されて気が付かなかったけれど、街にはトランペットを演奏する男性や、キャンバスに絵を描く女性など、街の雰囲気の中に自然と芸術が溶け込んでいる。

 そんな芸術の都で、歌手や画家など、芸術を仕事に生きる人間は、老若男女問わず憧れの的だ。ケルンセンの至る所の街で、コンサートや展示会などが開かれており、多種多様な才能を持った芸術家たちが、日々ケルンセンの民たちの心を癒しているのだ。


 けれどもどれだけ発展した世界でも、発展しすぎるとそれは熾烈な競争や蹴落とし合いの世界になる。


 ケルンセンの歌手、特に女性歌手の世界は、弱肉強食の動物界でもそこまではならないのではないかと思うほどに蹴落とし合いの世界だ。

 そもそもまず、歌手としてデビューすること自体が困難であるのに加え、仮にデビューできたとしても、そこから女性たちの熾烈なライバル争いが始まる。

 仕事を獲得するために相手の楽屋の飲み物に塩酸を混ぜたり、ファンレターに剃刀を入れたり、舞台で使用する衣装を破いたり……。この話を聞いて、女性たちのドロドロした争いって本当に存在するんだなと思った。

 一度注目される歌手がいても、数年が経てばまた新しい歌手が現れ、そのまた数年後に新しい歌手が現れる。

 これはいわば、私の故郷のアラクでいう、芸能人と同じようなシステムなのだろうが、厳しさに関しては私の故郷の度合いを大きく上回る。うちはある程度実力が足りなくても、性格が良かったら案外残れたりするし、あとは応援してくれる人がいるかいないかといた要素も重要になる。

 

 けれどもケルンセンの女性歌手業界は、超実力主義。実力はもちろんのこと、容姿、人間性、スター性、あとは人によってはダンスなんかも求められたりする。

 これだけたくさんのことを求められる世界に一瞬目眩がしたが、華やかに見える世界の裏側は、いつだって厳しいものだ。

 一見すると楽しそうだが、私は絶対にこういった世界には入りたくない。


 そんな話を聞くだけでも軽く絶望しそうなケルンセンの業界で、国民から「歌姫」と呼ばれ、入れ替わりが激しいケルンセンで5年以上トップの人気を誇る人気の女性歌手がいる。


 それがさっきの話に出てきた「セレーネ」だ。

 5年と聞くとそこまで長く感じないが、まるでその人が活躍した痕跡も残らないようなケルンセンの女性歌手業界では、5年というのは相当な長さであるのに加え、このセレーネが、現在22歳という非常に若い年齢でトップに君臨しているというのが、良い意味で異常事態であるらしい。

 

 子どもたちから話を聞くと、セレーネは非常に魅力的な人物だった。

 まず、他を寄せ付けないほどの圧倒的な歌唱力と表現力は、聞いた人全てを幸せにする力があり、子どもたちも偶然一度聴いたことがあるそうだが、それはもう眠りについてしまいそうなくらい美しい歌声だったらしい。

 それに加え、人だかりが少しマシになってきたのでみんなが注目していたものを見てみると、そこには恐らくセレーネを描いたポスターがあった。

 そこには淡い水色のセンター分けのロングヘア―に、発光しそうなくらいに白い肌、見ているだけで吸い込まれそうな翡翠色の瞳を持った、綺麗だが同時に可愛らしい女性が描かれていた。

 なるほど。さっき、人だかりの中の一人が「女神様みたいだ~……」と蕩けそうな顔で呟いていたが、これは確かに女神みたいな美しい容姿の持ち主だ。


 そしてそんな女神のような歌姫が、今日この街のホールででコンサートを行うらしい。

 その為あんなに人だかりができていたらしい。

 確かにそれだけ人々から慕われる人のパフォーマンスなら、私も一度聴いてみたい。何となくそう思った時、私の近くにいた女性二人組の会話が耳に入って来た。

 「今日セレーネ来るの?あの性悪女神が?」

 「やだーてかまた男変えたんでしょ?今月入って何回目?」

 

 話を少し聞いていると、このセレーネという人は、絶大な人気を誇る反面、悪い噂も絶えないらしい。

 自分の勝手な都合でスタッフをクビにしたとか、二股どころか七股していたとか、マネージャーに我儘で豪邸を購入させたとか……。

 あと、ケルンセンにはそういった情報を掲示板で伝える文化もあるらしい。これってもしかして……。


 「……週刊誌みたいな感じ?」

 思わず口に出ていた。さっきの悪口の張本人である女性二人組も、よく分からない言葉を発した、よく分からない格好の私を見て、えっ?と怪訝そうな顔をする。

 ……うんまあ、確かにそっちにとってはよく分かんない単語かもだけど、そんなあからさまに変な目で見てこないでよ……。 

 

 でも、芸能人に対して根も葉もない噂が立つというのは、国が変わっても変わらないらしい。

 今することでもないなと思い、私はケントたちに、「行こう」と呼び掛けた。

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