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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第3章 花の都・ロレーヌ
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形だけでも

 「えっ……!はっ……!?」

 突然の出来事に、私は驚きの色を隠せなかった。人の遺体が突然灰になったというのも衝撃だが、私は同じ光景を過去に一度見ている。

 アリウムだ。ブルゴーニュで戦ったあの精霊使いの青年。あの人と全く同じ消え方をしていた。

 遠く離れた異国の地で、立場も境遇も異なる二人の男性が、どうしてこのような最期を辿ったのか。

 「あ……」

 その時私は、あるものを見つけた。赤い宝石。これもアリウムの時と同じだ。赤い宝石はここから北東の方向を指していて、これが次私たちが向かうべき場所?と感じた。

 灰になって風に飛ばされていく様子を見つめながら、私は頭を必死に回転させた。


 「えっ……ちょっ……メリッサ!これ、どういうこと……?」

 私と一緒にその光景を眺めていたナディアが、不安そうな表情で私に尋ねてくる。

 無理もない。ケントとアデルなら同じ光景をブルゴーニュで見ているので、多少は冷静でいられるかもしれないが、ナディアはこのような光景を見るのは初めてだ。動揺して当然だ。

 「……ナディア。実は私たち、ナディアに出会う前に同じ光景を見たことあるんだけど、でも原因とか、何があってこうなったのかは全然分からない。でも一つ言えるとしたら、この人はもう死んで、ロレーヌの体制はこれから変わるだろうってことだね」

 「……」

 ナディアがまだ不安を秘めたような瞳で私を見てくる。

 ……不思議なものだな。少し前まで目の前で起こることに焦ってばかりいたのに、今ではこうして年下の子に指摘ができるくらいには冷静になった。

 これが私が外の世界に適応できるようになってきたということなのか、それとも私の心が冷徹になっただけなのか。どちらにしろ、後者の方ではあってほしくないかもしれない。

 

 「おい、お前らも終わったのか?」

 後ろから聞き馴染みのある声がして、反射的に振り返るとそこにはいつも通りの穏やかな表情を浮かべたケントと、何故か水で濡れたアデルが立っていた。

 「うん。……あのねケント、アデル。聞いてほしいことがあって」

 私はアルベールとの戦いの顛末を二人に伝えた。

 

 「……マジかよ。何で、ブルゴーニュから離れたこの場所で、そんなことが起こったんだ?」

 「……分かんない。判断材料が少なすぎるし、何となくだけど、踏み込み過ぎたら命に関わりそうな、そんな感じがする」

 そうだ。どのみち今は踏み込み過ぎても危険なことかもしれない。頭の隅に置きつつ、考えていくのが良いかもしれない。

 「……あのさ、ちょっといいかな?」

 私たちの会話を聞いていたナディアが、静かに切り出してきた。

 「ん?どうしたの?」

 「……みんなが嫌じゃなかったらでいいんだけど、シャルセーヌの、あの崖のところに行かない?」

 あの崖に?疑問に思っていると、ナディアが右手を広げ、さっきまでアルベールが付けていた白いリボンを見せた。

 

 「……これ、さっきの」

 「うん。もう家族三人で暮らすことはできないけど、せめて形だけでも、三人で傍にいさせてあげたいから」

 「……そっか。そうだね。ケント、アデル、事情は私が移動しながら伝えるよ。だから少し付き合ってくれない?」

 ケントとアデルは「?」といった感じの表情をしていたが、それでも否定はしてこなくて、そのまま私たちはあの崖へと向かった。

-----------------------------------------------

 シャルセーヌの町の近くの、あの崖に到着した。

 ナディアは手に持っていた白いリボンをしばらく見つめた後、まるで迷子の子どもを親の元へと誘導するみたいに、優しく手放した。

 白いリボンはゆらゆらと舞いを舞うみたいに崖の底へと、底の見えない闇へと落ちていった。

 ……これで、せめて形だけでも救われただろうか。アルベールも、アルベールの両親も。

 ナディアはリボンが見えなくなってからも、しばらく崖の底を見つめていた。

 

 「……あの世があるなら、家族三人で仲良く過ごしていてほしいね」

 ナディアの呟きに、私は心の底から同意して「……うん」と言った。

 

 「……で。メリッサ。あいつの遺体から、またあの宝石が出てきたんだって?」

 アデルが静かな空気を切り裂くような口調でそう聞いてきた。

 「……うん。それも、形も色も、大きさもあの時と同じような」

 「……ふぅん?で、宝石はどの方向を指してた?」

 「ここから北西の方向だったかな?これも、どんなに動いても北西を指してた」

 「北西……。なら、ケルンセンかもな。ケルンセン以外にない」

 ケルンセン。ここが、私たちの次なる目的の地なのか。

 新たな土地はどのような場所なのか。想像を膨らませていると、ナディアがいつもの明るい口調で言い出してきた。


 「また別の場所に行くの?それなら、私も一緒に行く!」

 「はっ?」

 「みんなにはお世話になったし、今度は私がみんなの力になりたい!私のこの精霊の力も、使えるものは何でも使ってよ!」

 「……ふふっ」

 

 ああ、やっぱりこの子は頼りになる。じゃあ。お言葉に甘えて使わせてもらおう。


 人形みたいに可愛い外見と、猛獣並みの怪力を持った女の子。ナディアが、私たちの仲間に加わった。

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