表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第3章 花の都・ロレーヌ
159/215

僕の父親 Side:アルベール

 僕が振絞るように言ったその言葉に、リュカはコクンと頷いた。僕の目を真っ直ぐに見つめて。

 そういえば、リュカも態度自体は今までと変わらないし、姿が変わっても匂いは変わらない関係で僕だということは分かっていそうだが、それでも僕を見る目が僕を見ていない感じがする。

 何というか、過去に会ったことのある人を少し懐かしむような。そんな感じの目で見られている気がする。


 でも。

 このリボンをお母さんに贈った人。僕とお母さんを永遠に引き離した存在が、僕の父親だなんて。

 心の中が深夜の星のない夜空みたいに真っ黒な、言葉にできない気持ちでいっぱいになって、次の瞬間に僕は無言で近くに置いてあったナイフを取った。

 今手に持っているのはナイフはナイフだが、狩りの際に使用するものであるため、ナイフというより短剣に近い大きさだ。

 ナイフを懐に隠すと、僕はリュカにこう言い放った。


 「リュカ。僕の父親の元へ案内して」

 目的は単純。僕の父親を、殺すためだ。

 昔読んだ本で、夫婦は一緒に暮らすのが当たり前らしい。なのに一緒に暮らしていないということは、恐らく父親がお母さんのことを捨てたんだろう。

 お母さんのことを捨てて、お母さんにトラウマを作って、そして結果的に僕とお母さんを永遠に引き離した。

 そう思うと、血が繋がっているかといったことはもうどうだってよくて、ただ僕の心の中に、殺したい、この世から存在を消し去りたいという気持ちに支配された。

 

 僕の反応を見たリュカは一瞬驚いたが、それでも僕を止めようとはしなかった。

 ゆっくりと歩き出して、僕はそれについて行った。

-----------------------------------------------

 しばらく歩いて、僕はロレーヌの首都・ラシェルに到着した。

 狼を連れた傷だらけの少年という、なかなか奇異の目で見られそうな格好をしていたが、不思議なことにそんな目で見てくる人はいなかった。

 むしろその反対。僕を様々な目で見てくる人がいた。

 羨望。欲望。嫉妬。ああ、美しい人というのは、いつもこんな目を毎日浴びながら歩いているのか。

 町の様子自体は本を読んでいた関係で知ってはいたけど、それでも突き刺さってくる感情の槍の数々に、吐き気すら覚えた。

 

 「ねぇ僕……。すごく綺麗な顔してるのに、どうしてそんなに傷付いてるの?」

 視線を避けるように俯きながら歩いていたので、すぐ近くに人がいたのにも気付かなかった。

 声を掛けてきたのは、恐らく20代くらいの女性だった。ゆっくりと顔を上げると、その瞬間に僕は仰天し、急いでその場から逃げ出した。

 

 何でって、女性の顔が、お母さんの顔に見えたからだ。

 理由なんて分からない。もしかしたら、さっきお母さんに暴力を受けたことがそれほどショックだったのか?

 さっきの人は髪の色もお母さんと同じ焦げ茶色で、そのせいかなおさらお母さんみたいに見えた。

 どうしよう。髪の……色素の濃い女の人とは会いたくない。

 そう思いながら無我夢中で走っていると、いつの間にか町の郊外へとやって来てしまった。


 はあはあと息を整えていると、リュカがグイグイと服を引っ張ってきた。

 「え……。リュカ、どうしたんだよ……」

 おぼつかない足取りでリュカを追いかけると、そこにはお伽噺に出てきそうな立派な屋敷……というか宮殿があり、古くて狭い小屋で長年生活していた僕は、それに直面しただけでも言葉を失った。

 「え……。な、なにここ……」

 何でリュカがこんな場所に連れてきたのか。いろいろと混乱していると、宮殿近くに花畑があり、そこに一人の男性が佇んでいるのが見えた。

 

 「ん……?人……?」

 とりあえず、あの人に聞いたら何か分かるかもしれない。一旦あの人の元へ……と思っていると、リュカがいきなり駆け出した。

 「ちょ!リュカ!?」

 リュカは男性の元へと一直線に走って行き、僕はそれを追いかけると、そのまま男性に飛びついた。

 

 「うわっ……!……リュカ!?」

 その声と姿で、僕は硬直した。

 何せ、僕と同じ銀色の髪に整った顔立ち、すらりとした高身長に軍服は、女性の目を引きそうな美しさがあった。

 そして何より、声が僕と全く同じ。確信した。

 ああ、この人は僕の父親だ。根拠はないかもしれないけれど、間違いない。

 父親が僕に気付くと、僕のことを一瞬訝し気に見た後で、ハッと何かに気付くような反応をした。

 

 「君は……。もしかして……」

 その瞬間に、僕は父親の元へと無言でずかずかと歩んでいき、そのまま懐からナイフを取り出して……。



 腹部に思いっきり突き刺した。

 刺した部分から勢いよく血が出て、父親の服と、僕の顔と、周辺の花畑は血で濡れた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ