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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第3章 花の都・ロレーヌ
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何が幸せか

 怒涛の出産から、早くも10年が経過した。私は26歳に、アルベールは10歳になっていた。

 アルベールは何の悪戯なのか、外見は完全に私と似ていた。

 焦げ茶色の髪に少し痩せた体形。……何より、小さい目に大きな鼻、全体のバランスが悪すぎる、顔に塩酸をかけられる前の私とよく似た顔立ちをしている。

 けれども本音を言うと、私と似てくれて良かった。エドガーと似なくて良かった。

 もしアルベールの顔立ちがエドガーと似ていたら、私はエドガーのことを重ねてしまって、理不尽なことをしてしまいそうだったからだ。


 それに、外見なんて気にしなくても、アルベールは本当に真っ直ぐすくすくと育ってくれていた。

 顔立ちこそ私と似ているが、アルベールは自分から進んで読書を楽しめるくらいに聡明で、リュカたちと協力しながら狩りを行えるくらいの身体能力もあった。この間も、「今日の晩ごはんはごちそうだよ!」と言いながら、狩りで得た鹿肉を持ってきてくれたりした。

 リュカやアニーたちとの仲も非常に良好で、この年頃の子ならあれが欲しいこれが欲しいと言いそうなものだが、アルベールはそのようなことを一つも言わず、こんな不自由な暮らしを送らせている張本人である私のことを、母として慕ってくれている。本当に優しくて純粋な子だ。


 ……けれども。だからこそ心配事も多かった。

 まず単純に、アルベールをずっとこの森に閉じ込めるような形で育ててしまって良いのか。

 アルベールは優しくて聡明な子だ。だからこそ、私もよくは知らないが、広いであろうこの世界を見て、いろんな経験をしてほしい。

 ……でも、この世は美しくないものが大嫌いだ。アルベールの姿を見て、私と同じように差別したり、理不尽な目に遭わせてきたり、最悪命を狙うような輩が現れたら……。

 ああもう、何がアルベールにとって最善の選択なんだ?幸い、アルベールはここでの暮らしを楽しんでくれている感じはある。でも、ここで一生過ごすというのもどうかと思う。

   

 うーんと思っていると、アルベールが「お母さん、どうしたの?」と心配そうな顔で覗き込んでくる。

 「わっ!アルベール!?」

 「何かしんどそうな顔してたけど……どうしたの?」

 「ううん!ちょっとお腹空いてただけだから!さっ!早くご飯にしよう!」

 ほんと?何かあったら僕に言ってね。と言うと、アルベールは食事を運び出した。

 ……うん。やっぱりまだそんなに焦らなくて良いかもしれない。アルベールももう少し大人になったら、ああしたいこうしたいと主張するようになるかもしれない。

 その時までゆっくり見守れば大丈夫だよね。そう思い、私はさっきまでの思考を放棄した。

-----------------------------------------------

 僕のお母さんは、すごく優しい。優しくて頭が良い。

 本を読んでいて分からないことがあればすぐに教えてくれて、僕が夜に眠れないことがあれば、眠れるまで傍にいてくれて、この間も僕が好きなアケビを僕に全部くれたりした。

 森の中だと人がほとんどいないからと言って、お母さんが昔から仲が良い狼のリュカや、ネズミのアニーといった動物たちと僕を会わせてくれて、僕は友達もできた。

 優しいお母さんと、可愛い動物たち。この幸せな暮らしがずっと続けば良いなと思っていたし、僕自身もすごく幸せだった。


 ……でもそんな僕が、一つだけ気がかりなことがある。

 お母さんは、夜になると時々、夜空を眺めながらどこか悲しそうな顔をする時がある。

 昔読んだ本で、女の人は誰かを想う時、誰も見ていない時を狙って一人でぼんやりとすることがあると書かれていたけれど、お母さんに聞いてもはぐらかされるので、本当のことは分からない。


 でも、理由が何であれ、お母さんには笑顔でいて欲しい。お母さんを笑顔にするにはどうすれば良いんだろうと思いながら、いつものように夜ベッドの中で本を読んでいると、そこには印象深い物語が描かれていた。


 それは、美しくないことが理由で追い出された娘が、魔法使いの魔法によって女神のように美しくなり、家に戻ってその美しさに驚いた両親が再び娘として迎え入れ、また暮らし始めるというものだったのだが……。これを読んで、僕の中に一つの案が浮かんだ。


 僕が美しくなったら、お母さんは喜んでくれるんじゃないかな。

 さっきの物語の両親の最低さも気になったが、でも何かが美しくなれば人は驚くというのには同意する。

 ……僕の顔立ちは、正直に言って整った方ではないらしい。これも本に書いてあったことだ。顔立ちのバランスが悪い人は、正直美しくはないのだと。


 美しく、なりたいな。

 森の中で薪を集めながらそう呟くものの、そんなすぐになれないことは、僕にも分かっている。

 分かっているけれど、お母さんには笑顔になって欲しい。

 

 「はあ~……どうしたらいいんだろう……」

 「美しくなりたいの?だったら姿を変えてあげようか?」

 「え!?」

 

 背後から声がして、勢いよく後ろを向くと、そこにはフード付きの黒いマントを被った人が立っていた。

 

 

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