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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第1章 アラク
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日曜日の日課

 翌日。日曜日になった。

 私は学生寮で昼食を食べ終えると、リュックにパンの入った紙袋を2つと、書店で購入した算数の参考書のコピーを入れ、寮を出た。


 バイト先のパン屋からしばらく歩いた所にある、地下へと続く階段へと向かい、周囲に人がいない事を確認して、私は階段を降りて行った。

 階段を降りていくと、少し腐った水と、コンクリートと、そしてそれが混じった腐臭がして、思わず鼻を抑えた。それにしても、この階段はやたらと長い。ビルでいうと10階分くらいは相当するんじゃないだろうか。

 そんな事を考えていると、目的地へと到着した。


 木製のボロい家の数々に、街全体に通っている腐った下水道、周りの目も気にせず雑魚寝をする痩せ細った老人…。クラスメイト達が見たら倒れるんじゃないだろうか。


 ここはアラクの首都・ニセコの地下にある地下街だ。

 およそ5000万人程のアラクの人口のうち1%…5000人程が暮らしている場所で、主に収入がアラクの平均年収よりも倍近く低い者、何らかの理由で家を追い出された者、犯罪を犯し、刑務所を出た者など…所謂社会からはみ出た者達が暮らす場所だ。

 もっと別の言い方をするなら…スラムと言って良いかもしれない。


 目的地へ着いた瞬間、リュックを前にして軽く抱きしめるように掛け直した。

 この地下街は地上と比べても犯罪発生率が桁違いに高く、というかアラクの犯罪の半分近くは、この地下街の住人が犯している。犯罪内容として、窃盗はもちろん、売春や暴力、違法薬物の売買なども行われていて、気を抜くと荷物を盗まれてしまう。


 周囲に気を張らせながら歩いていると、地下街の中心にある広場に到着した。この広場は主に子ども達がサッカーをしたり、鬼ごっこをしたりと、子供達にとっての娯楽の場所となっていて、この地下街では1番活気に溢れる場所かもしれない。

 地下街へ到着するとその中央でドッヂボールをする子ども6人を発見し、それと同時に子ども達も私の方を向き、ぱあっと表情を輝かせながらこっちへ走ってきた。


 「メリッサ!メリッサだ!今日も来てくれたの!」

 「ねえねえ!今日もパン持ってきてる?お腹すいたよー」

 「ねえ!後で勉強も教えてよ!僕割り算出来るようになったんだよ!」

 「早く遊ぼうよ!今ドッジボールしてたんだ!」

 年齢も性別もバラバラな小学生の年齢に当たる男の子、ヘンリー、レオ、アレン。同じく小学生の年齢に当たる女の子、リサ、マーガレット、アンナ。

 みんなボロボロの服に汚れた肌、ぼさぼさになった髪をしていて、これはしばらく入浴も洗濯もできていないなと一目で分かった。


 この子達との出会いは私が高校に入学したばかりの時だ。

 バイトの帰り、これから住む事になる土地の事をよく知りたくて、その辺を散歩しているうちに道に迷ってしまい、その結果見つけたのがあの地下へと続く階段だった。

 好奇心から降りてみたところ、そこにはアラクの華やかな都会とは180度異なる、陰鬱な空気が漂う街が広がっていて、あまりに地上と異なる雰囲気に私も緊張で心臓がバクバクと鳴ったのを覚えている。


 けれども怖いもの知らずだった私はとりあえず街を歩いてみて、そしたら手に抱えていたパンの入った紙袋を、誰かに盗まれてしまったのだ。


 その窃盗犯が、あの6人だった。


 けれども小学生くらいの歳の子の足の速さなんて知れてるし、急いで追いかけて盗んだ6人を捕まえたその時、その子のお腹がぐううと鳴って、私は思わず「お腹空いてるの?」と聞いたのだ。

 するとみんなは泣きそうな顔でこくりと頷いて、まあお昼はバイト先の残りに頼らなくても、購買で買う日があっても良いなと思い、私はその子の持っていた紙袋を見て「いいよ、それあげる」とあげたんだった。


 その結果、何故かこの6人に懐かれてしまい、私が毎週日曜日は空いているのを知ると、「なら、これからも来てよ!」とキラキラした顔で言われて、それ以降も毎週日曜は継続してこの地下街に来るようになったのだ。







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