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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第3章 花の都・ロレーヌ
149/215

この世の醜いを凝縮したような存在 Side:?

 「わっ!ちょっと、あいつ今日町に来てるんだけど!?」

 「うわっ!ほんとだわ、何かあいつが歩いた所から菌が繁殖しそうよね」

 「いっそのこと石でも投げて追い払ってみる?」

 「何かこの世の醜いを凝縮したような存在よねー」

 「……」

 

 町を歩いていたまだ僅か15歳の少女に、通り過ぎる人々は隠す気もなく罵詈雑言を浴びせる。

 少女の名前はカロリーヌ。

 焦げ茶色のセミロングに160あるかないかくらいの身長、少し瘦せ気味の体形で、これだけ見ればどこにでもいる普通の女の子だ。本当に、これだけ見ればの話である。


 カロリーヌの顔立ちは、控えめに言っても醜かった。


 元々あまり大きくない目にパーツのバランスの悪い顔立ちの、あまり整ってはいない容姿の持ち主だったが、美しい娘を欲していたカロリーヌの父親にとってはそんな子が娘だという事実が耐え難く、カロリーヌが物心つく頃には日常的に殴る蹴るなどの虐待を行っていた。

 そして7歳くらいの時、仕事で不調続きだった父親は、そのストレスからカロリーヌの顔に塩酸を浴びせてしまい、その結果カロリーヌの顔は酷くただれたようになってしまったのである。

 カロリーヌの家にその傷を治すだけのお金もなかったし、当時の医療の技術でもそんな傷を治すだけの力はなかったので、カロリーヌの父親はまだ幼い娘を追い出し、一歩的に絶縁をしてしまった。

 

 帰る場所をなくしてしまったカロリーヌは途方に暮れ、冬の冷たい風が肌に刺さり、冬だというのにぼろぼろの薄着で寒さに耐えながら辿り着いたのは、牢獄の清掃の仕事だった。


 牢獄は日々罪人の拷問や処刑を行う関係で毎日血で汚れたりするのだが、そんな仕事内容なので普通の人は皆やる事を嫌がっており、カロリーヌのようにコミュニティから追い出されたような存在が就く事が多い仕事だった。

 毎日誰のものか分からない血を掃除するのは、まだ10代にも入っていない幼い少女がやるには非常に過酷なものだったのに加え、まだ女性の身体に成長していないのを理由に執行官から強姦されそうになったり、他の清掃の同業者から仕事を押し付けられたりと、狭くて他に行き場もないような世界でカロリーヌは終わりの見えない辛い日々を過ごしていた。


 でも。それでも。

 そんな理不尽で不条理な世界でも、カロリーヌは太陽みたいに明るく、月の光みたいな温かな優しさの持ち主だった。


 カロリーヌの母親はカロリーヌを産んだ時に亡くなってしまっていたが、お腹の中にいた時の記憶があったカロリーヌは、母親が自分を妊娠していた時にかけてくれた、「あなたが美しかろうが醜かろうが、あなたはあなたである事に変わりはないんだよ」という言葉を鮮明に覚えていた。

 その為父親に理不尽な理由で追い出された時も、牢獄で自分の性を侮辱されるような扱いをされても、町を歩いて自分に思いやりのかけらもない罵詈雑言を浴びせられた時も。

 カロリーヌは誰の事も恨みも憎みもしなかったし、むしろ自分が辛い思いをして誰かの心が少しでも救われるならそれで良いとすら思っていた。

 

 それに、辛い事ばかりではなかった。

 そんなカロリーヌの内面を見抜いていた為か、犬や猫などの動物にはとても好かれていたし、拷問用に飼われていたネズミや狼など、いつもは人を襲うような動物も、カロリーヌの事は絶対に襲わず、むしろカロリーヌには懐いていた。

 そんな動物たちが、カロリーヌの為に甘い果物や捨てられて読まれなくなった本を持ってきてくれたり、夜になるとカロリーヌと一緒に眠ったりしたので、カロリーヌは寂しい思いをせず思春期を過ごす事ができた。


 そんな人間には迫害され、動物には好かれるという日々を過ごしていた15歳のある日。カロリーヌはとある出会いを果たした。

 いつものように牢獄の掃除を行っていると、部屋に仲の良い狼のリュカがやって来た。

 「あれ?リュカ、どうしたの?いつも遊びに来る時間じゃないのに……」

 リュカというのは自分がつけた名前で、いつもは拷問用の道具として特に名前を呼ばれたりする事がないので、名前が無いのは寂しいだろうとカロリーヌが付けた名前なのだが、リュカも名前を呼ぶと嬉しそうにするので、そう呼んでいる。

 そういえば、ネズミのアニーは最近子どもを出産したので、新しく名前を考える必要がある。どんな名前にしようかなと思いながらリュカの頭を撫でていたその時だった。


 「ちょっ!何で撫でるのも嫌がって逃げるんだよ!僕はただ一緒に遊びたいだけなのに!」

 高すぎず低すぎない男性……いや、自分と同年代くらいの男の子の声がして、カロリーヌは頭を上げる。

 銀色のロングヘア―をポニーテールに束ね、黒い軍服を着ている。見た感じ自分と同年代か少し年上くらいに見えたが、金色の瞳にほんの少しの鋭さを持った目、全体のバランスが整ったその顔立ちは端正で、この世の美しさを凝縮したような、そんな雰囲気があった。


 「君は……この狼のご主人?はじめまして、僕はエドガー・デュボン。君の名前は?」

 「……」

 初対面で私の顔も真っ直ぐに見ているのに、嫌そうな顔をしない人は初めてだな、と思っていると、カロリーヌは自分の名前を言うのも忘れてしまった。


 


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