……同一人物?
ケントとアデルが軍人達と交戦していたのとほぼ同じタイミング。
私とナディアは、アルベールと交戦状態にあった。
2対1なので、一見するとアルベールのほうが不利に感じてしまうが……実際はそんな事はなかった。
「はっ!せいっ!」
私が全力の動きで何度も素早く攻撃を繰り出しても、アルベールはそれを細いレイピアで全て防いでしまい、私達4人の中では恐らく私が最も白兵戦を得意としているので、ある程度打撃を与えられるかと思ったが、至ってそんな事はなく、それどころかアルベールは攻撃を先読みして防いでいる感じさえあったので、自分の剣術の未熟さを痛感する。
そして恐ろしいのはこれだけではなかった。
「はぁーーーーっ!!!」
声をした方向を向くと、ナディアが上空で一回転し、アルベールに斧で思いっきり打ち付けるように攻撃したが、それもアルベールはレイピアで易々とガードしてしまった。ナディアの攻撃の勢いが凄まじかったのか、アルベールが立っていた地面が沈むように破壊される。
一見すると線が細く、どちらかといえば私と同じスピード特化の剣術使いのようにも見えたが、力の精霊という規格外の力を持つナディアの攻撃をガードするなんて、スピードだけではなく力の方も非常に優れているらしい。あと、ナディアの全力の攻撃を食らっても壊れないあの剣……恐らくナディアの力を使っても破壊できない、ダイヤモンドか何か硬い鉱石を使った剣なんだろう。
私達2人で戦っても追い詰められないどころか、逆にこちらが焦らされるなんて、ロレーヌの総統という肩書きは伊達ではない。
どうしようと頭の中で考えていると、アルベールはまたさっきみたいに短剣を私の方に向かって投げてきて、それを急いで刀で弾き、さっきみたいな傷は負わなかったものの、今度はアルベールの姿を見失ってしまった。
「!?……いつの間に!?」
「メリッサ上!!!」
ナディアの指摘を受けて上を確認すると、アルベールは私に向かって剣を思いっきり振るい、私は間一髪で半分避けたので、左肩に少しだけ深い傷を負った。
「あ、ありがとうナディア……」
左肩から流れる深紅の血液を眺める。さっきはナディアが声を掛けてくれたから助かったけど、もしそれがなかったら本当に腕を切り落とされるところだった。これでも全然軽傷の部類だ。
「……このまま腕を切り落とすはずだったが、邪魔が入ったな。どちらか一方を殺した方が手っ取り早いか」
「……どうしてそんなに、女性に対して殺意と憎悪を持ってるの」
ナディアが私の近くに寄りながらアルベールに尋ねる。
「だって、どう考えても理由があるでしょ。そんな殺意を向けるなんてあなた何で」
「理由?そんなのは特にない」
ナディアの疑問に、アルベールは冷静な口調で吐き捨てた。
「何でだろうな……。俺も気付いたらお前達の事が嫌いで、大嫌いで、全て殺したいくらい憎かった。
特に思い当たる理由もないし、多分生まれつきお前達が嫌いなんだろうな……それにお前」
アルベールと私の目が合う。恐らくナディアではなく私に対して言ってるんだろう。
「お前はよく分からないが……そのピンクの髪の女以上に不愉快だ。やはりさっきの攻撃で殺しておけば良かった。お前みたいなのは生きる価値なんてな」
「今何て言ったの?」
ナディアがドスの効いた低い声でアルベールを睨む。
「私の友達に、生きる価値なんて無いって言った?」
「……言ったが?」
ナディアは暫く俯いていたが、私はその様子が心配になってナディアの表情を確認しようとしたが、すぐに止めてその場から少し離れた。
何でって、ナディアがもの凄い殺気を放っていたからだ。
ナディアは暫く俯いて斧を改めて構えると、そのままアルベールの元へ走り、斧を振るい落とした。
「おいおい。さっきと同じ手口か?それじゃ俺に届きは」
「私はねぇ……」
アルベールの言葉も無視して、ナディアは続ける。
「髪が乱れる事よりも、メイクが崩れる事も、服が汚れる事も、ぜんっぶ大嫌い。でもそれ以上に……
友達が傷付けられるのはもっと嫌!!!」
そう叫んだ瞬間、アルベールの圧倒的硬度を誇っていた剣にヒビが入り、アルベールがそれに少し焦りながら気付いた瞬間、アルベールの剣は破壊され、ナディアはそれと同時にアルベールに渾身の一撃を、右肩から腰まで食らわせた。
「……!?」
アルベールは何が起こったのか分からないとでもいうような表情をしたが、傷が非常に深かった為か大量の血を吹き出し、その場に膝をついた。
「ぐっ……。がはっ……」
口からも吐血し、アルベールの周辺に血の海ができる。
「お終いだよ。総統さん」
ナディアがトドメの一撃を食らわせようとしたその時。
「わっ……!やめてよお母さん!僕の事殺さないで!」
一瞬何が起こったのか分からなくて、ナディアは動揺しながら攻撃の手を止める。
さっきまで冷酷な男性の表情を浮かべていたアルベールは、今はナディアの方を涙目で見ながら震えていて、同じ人物とは到底思えないような、そんな子どもっぽい怯えた姿を見せていた。
「ごめんなさいごめんなさい……!美しくなくて、お母さんの望む息子じゃなくて!」




