何で気付かないんだ?
メリッサとナディアがアルベールと対峙していたのと同じ時、ケントとアデルは100人以上はいる軍人達に囲まれるように対峙していた。
「あの女共もそうだが、2人で俺達を倒そうなんて男共も馬鹿だなぁ!」
「あぁ!しかも俺達は1万人以上いる軍の中で、アルベール様とこの宮殿の警備を任された、選ばれし精鋭達だ!」
「今土下座したら命だけは助けてやるよ!」
「……だったらここはこうして……」
「……それやって大丈夫か?何なら俺が……」
軍人達が所々から偉そうで度を越した自尊心に溢れた発言をケント達に浴びせる一方で、そんなケント達は軍人達の事など気にする素振りもなく、2人でヒソヒソと話し合いをしていた。
一見するとかなりの危機的状況なのに、何事もないように話し合いをするその姿は、まるで後ろに担任の先生がいるのも気にしないで、担任の先生の愚痴や悪口を言う高校生みたいだった。
「おい!聞いてんのかお前ら!?」
「……え?今のって俺達に言ってたの?」
ケントが目を少し開けてきょとんとした顔で軍人達を見つめると、「聞いとけよ!」と怒る者から「可愛いなぁ、あの子」とデレデレした目で見る者まで、まばらな反応を見せた。
……ちなみにこの時、ケントの事をやはりそういう目で見てくる軍人達がちらほらと見られた為か、ケントが心の中で静かに怒りの炎を燃やしている事に、アデルは今までの経験から察していた。
「……ちょっとめんどくさいけど、やろうか!アデル!」
「おー。でもカッとなって前みたいに殺したりすんじゃねーぞ」
ケントとアデルは軍人達が立つ方向に向き直る。
「おらお前ら!行くぞぉ!」
軍人のうち1人がそう叫ぶと、100人以上入る軍人達が一斉にケントとアデルに襲い掛かった。
「おら死ねえぇぇぇ!」
何名かの軍人がケントに襲い掛かろうとしたが、攻撃しようとする寸前で全員が腕を止めた。
どうしてかって、ケントがこの状況にそぐわないニヒルな笑みを浮かべていたからだ。
中性的な美男子がこんな状況に浮かべるニヒルな笑みほど怖いものはない。下手したら夢に出てきたりトラウマになったりしそうだ。
「あー……。やっぱりお前ら、腕は確かにそこそこあるかもだけど、でも今の俺には全然届かないし、何でこの状況になっても気付かないの?
そっちの方が圧倒的に不利だって事に」
そう言った次の瞬間、私達が落下先したプールの水が、突然爆発音のような大きな音と共に津波を作ると、軍人達の半分くらいは飲み込んでしまい、その勢いのままできた水の塊のようなものに、軍人達は閉じ込められた。
「……っ!!!???」
突然すぎる出来事に、水の中に閉じ込められた軍人達は水にもがく。
何とか脱出しようとする者もいたが、逃げようと水の中で身体を動かす度に謎の強力な力によって悉く阻止され、さらに水の中で何かに首を絞められたりした結果、酸素不足による関係で1人、また1人と意識を失っていき、数分もすれば水に閉じ込められたほぼ全員が意識を失った。
ケントは全員が意識を失った事を確認するとプールの水にかけていた水の精霊の力を解除する。
水の塊から出てきた軍人達は皆、白目を剥いて口から泡を吹いていた。水の精霊の力を強めにかけておいたので、余程の事がない限りしばらく目を覚ます事はないだろう。
「……さっき俺達が空からプールへ落下した時。あんな高さから落下したら、普通の人間は助からないか、怪我は免れられない。なのに俺達は無傷だったんだから……そこに非現実的な力が絡んでいるとは考えなかったのかな?それもこんな単純で、ほとんど練られてもないやり方の」
ケントが解除した水は、意思を持つ生き物のようにぬるぬると地面を這って、元居たプールへと戻って行き、数秒の間に元々のプールの姿へと変化した。
「あ、あとさ……」
ケントは何かを思い出したように1人の軍人の元へ行き、そいつの前髪を掴んで上体を起こすとそのまま強烈な蹴りを食らわせた。若干何かがバキッと割れるような音が鳴る。
「俺は男だよ。何が可愛いだ。しかもあの反応からして、男って分かっててあんな反応したな?」
男にそう吐き捨ててその場に思いっきり捨てると、ケントはプールの方へ向かい、水に手を浸しながら「ありがとう。助かったよ」と言った。
水面が緩く揺れて、水もケントに褒められて嬉しそうにしていた。
「あ。あれで思い出した。俺アデルにデコピンの刑まだやってないな」




