お兄さんとの出会い⑤
「…っていう事が、過去にありましたね」
我ながら話が長くなってしまった。
「…それさ、周りの大人に話したの?」
「バイト先の店長には話しましたよ。でも『君はしっかりしてるから、1人でも大丈夫でしょ?』とか『君の接し方に問題があったんじゃないの?』しか返ってこないです」
「……」
お兄さんからの返事はなかった。でもその代わり、お兄さんは私の顔を見ながら睨んでいた。
もちろん、私個人に対して向けられているんじゃなくて、今の話に対してこんな顔をしているのは、私にも分かった。
「…君がどれだけ怖い目に遭って」
「…へっ?」
「周りの大人にちゃんと話を聴いてもらえなくて、勝手に君のせいにされて、君は安心できたの?
君はきっと傷付いたのに」
「……」
お兄さんの静かだけど小さな怒りの入った話し方に、私は思わず黙りこんだ。話し方もそうだけど、内容が特に驚いた。
そうだ、あの時私は、すごく傷付いたんだ。
なのにみんな私の見た目とか、表面上の振る舞いばかり見て、私の心なんて全然見てくれなかった。
「馬鹿馬鹿しい」という気持ちのもっと奥に、「悲しい」そして「誰でも良いから気付いて」という気持ちがあった。
そんな気持ちを一瞬で見抜いたお兄さんに、ものすごく驚いた。
「…あっ、ここまでくれば、もう大丈夫だと思います」
学生寮近くの公園に着き、お兄さんに呼びかける。
…正直すごく、このお兄さんから離れたかった。
…私の、誰も見てくれなかった心を覗かれて、心を曝けてしまいそうで、少し怖かったから。
「そう?それじゃあまたね。おやすみ。」
そう言うとお兄さんは手を振って去っていった。
…不思議な人だったな。
…あれ、私、あの人の名前聞いてない…。
…まあ、もう会う事もないだろうし、いいか。
心の中で納得して、私は学生寮に入っていった。




