綺麗な花には棘がある
もうすぐ昼食の時間になろうという時、町長のガストンは町の出口付近の関所で昼間だというのに酒をグビグビと飲んでいた。
町長としての業務は部下達に全て丸投げすれば良いし、自分のする事、したい事は、自分が幼少の頃より大好きな金髪に白い肌の美女と戯れる事だけ。
けれども、ここ数年は金髪に白い肌の美しい女性が来る事はあっても、どこかピンと来ない。
何というか、どの女性もどの女性も同じなのだ。
量産という言葉が最も適しているだろうか。自分の中の言葉に出来ない好みとやってくる女性達の姿がどうも一致しない。
まあ、全くの好みではない訳ではないので、町を通過はさせてやるが。
退屈だと溜め息をつき、再びぽっこりと太った腹に酒を入れていると、「ガストン様」と部活が自分を呼ぶ声がした。
「ん?何だぁ……?俺は今忙しいんだよ……」
「恐れながら、町を通過したいと申す方が……」
……またか。どうせいつもみたいに条件をクリアしているだけで自分の好みではない女が来たんだろう。
「いらっしゃるのですが……それが……」
部下は頬を赤ながら後ろを振り返る。
するとそこには金髪碧眼の絹のような髪を一つに纏め、薄桃色のチークとグラスを白い肌に施した、白いフレアワンピース姿の美しい女性がいた。
その姿を見た時、頭のてっぺんから爪先まで電撃が走ったような感覚に襲われた。
ああ、この人だ。この人が俺が長年探していた女性だ!
「お、おいお前!お前は下がっていろ!」
興奮したガストンの指示を受けて部下がその場を退室すると、その場にはガストンとこの美しい女性しかいなくなった。
ガストンは涎を垂らしそうな顔をしながら女性の元へ近付くと、全身を触りながら舐め回すように美女の顔を見つめた。
「ぐへへ……長年美女はたくさん見てきたが、こんな上玉は見た事ねぇ!やっぱり正しく生きる者の元には神が贈り物をよこすんだな!」
勝手な展開をするガストンとは対照的に、美女は穏やかな表情を浮かべたままガストンを見つめている。
すると美女はにこりと微笑むと膝を少しだけ折り、何とガストンの唇に自分の唇を重ねてきたのだ。
しかも重ねて数秒後には口の中に舌が入ってくる感覚も確認できた。
「!!?」
驚いたものの、ガストンは自分好みの美女とキスができているというこの状況にすぐに溺れ、あろうことかどんな方法でこの美女と寝ようかと思考を切り替えた。
「……ぷはっ!」
数十秒して口を離すと、ガストンと美女の口から銀色の糸が数センチできた。
「ぐっふふ……!まあそんな焦らんくても、ゆっくり抱いて、あ、げ……」
美女とのキスに興奮したのも束の間、意識が何故か少しずつ遠くなっていく。いや、少しずつ眠くなっている?
意識を完全に手放す前、穏やかな表情を浮かべるばかりで一言も言葉を発さなかった美女が、自分に穏やかだが物を一刀両断するようなハッキリとした口調でこう言った。
「誰がお前みたいなキモい男と寝るか。異性と同性の区別もつかないのか?」
その声は女性らしさを感じない、むしろ、男性的な……?
そう言い放った顔は、穏やかだが目が完全に笑っていなくて、むしろ「こいつに深入りしたら死ぬぞ」という危険性を含んでいる。
こういう美しさと危険を孕んだものを何て言うんだっけ……?
ああ、綺麗な花には棘がある。だっけ……?
この人に最も相応しい言葉を思い付いた時、ガストンは完全に意識を手放した。




