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コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第3章 花の都・ロレーヌ
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珍しくないけど幸福な時間

 ジョセフの計らいにより、馬車へと乗る私達。

 ケントとアデル、ナディアの3人は、育った環境上馬車に乗るのが特に珍しくはないようで、比較的慣れた感じで馬車へと乗車していたが、私は故郷の移動手段が主に自動車や電車、バスや自転車といったものがほとんどだったので、馬車に乗るのはこれが人生で初めてだった。

 その為、私はこの国の支配者を倒しに行くその道中だというのに、小学校の時の遠足に行くみたいな胸がわくわくする感じを実感していた。


 「わっ……。ふっかふかだぁ……」

 馬車の中は狭くて座り心地が悪くて、落ち着いて過ごせない場所だと思っていたけれど、この馬車は座席にふかふかな素材が使われていて、これなら長時間座ってもお尻が痛くなることがなさそうだ。馬車は最大で6人くらいは乗れそうな広さだったので、私達4人で余裕を持って座る事ができる。

 私の隣にケントが座って、向かい側の私の目の前にはナディア、その隣でケントの向かい側にはアデルが座る。その光景に、何だか遊園地の観覧車に乗ってるみたいだな、と故郷の乗り物を思い出す。


 「ふっかふかって……。そんなに馬車が珍しいか?」

 アデルが馬車の車窓に肘をつき、頬杖をつきながら私に疑問を投げかける。

 「うん。私の故郷では馬車がなかったから」

 「へえ。アラクって馬車がないんだな」

 「馬車じゃなかったら、一体何で移動とかしてるの?」

 「自動車とか電車とか、あとバスとか自転車とか……」

 「……え。ごめん。じどうしゃ?でんしゃ?何、それ?」

 ……あ。しまった。この辺りには自動車もバスも何もないんだった。自分の中の常識は、他人にとっては常識じゃない事なんて当たり前の事なのに、自分の国の常識と他の国の常識が違うって事に、何ですぐ気付けなかったんだろう。

 

 「そろそろ出発しますが、よろしいですかねー?」

 ジョセフが御者席から私達に声を掛けてくる。

 「あー。はい。よろしくお願いします」

 ケントが返事をしてすぐ、馬車は走り出した。馬車はもっとゆっくりだと思っていたけど、意外と進む速度は早くて、私達がさっきまで過ごしていた景色をどんどん後にしていく。

 車窓からロレーヌの美しい自然を眺めていると、前の方から「ねえ、じどうしゃって?でんしゃって?」とナディアが私に知りたい知りたいと言わんばかりに話し掛けてくる。

 「あぁ、電車はね……」


 私の話に、ナディアはもちろん、ケントやアデルも興味を持って耳を傾けてくれる。

 そういえば、こうやって仲の良い人と一緒に乗り物に乗って、何気ない話を楽しむというのも、私にとっては初めてかもしれない。

 アラクにいた頃は友達なんてほとんどいなかった……。いや、いたはいたけど、その子の都合上、一緒に遊んだりといったことができなかったので、そういった私の残り少ない思春期にできなかったことが、私に理解を示してくれる友達と一緒にできる。

 そんな珍しくも何ともないけど、穏やかさに満ちた時間を、私はただただ楽しんだ。

 


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