表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンフロント・マイノリティ  作者: 珊瑚菜月
第1章 アラク
13/215

お兄さんとの出会い④

 さっきよりも暗くなった空の下、お兄さんと2人で道を歩く。

 「…ねぇ、さっきみたいな事、初めてなの?」

 「…えっ」

 いきなり話しかけられると思っていなかったので、少し動揺した。…いや、今回のこれは初めてじゃない。むしろ…。


 「…あれは、大分マシな方ですよ」

 「…マシ?」

 明るい微笑みを浮かべていたお兄さんの表情が若干暗くなった。

 「…過去にもっと酷い事があったんですよ」


 …あれはちょうど1年前だっただろうか。私が高校2年の4月頃。

 パン屋のバイトを始めて1年が経過して、業務にも慣れてきた頃だった。店に50代後半くらいの男性が来店した。白髪の若干混じった髪にスーツをしっかり着こなし、堂々とした立ち振る舞いから企業の重鎮か何かだろうなと分かった。もっと言えば、失敗の痛みや生きる大変さを知らなさそうな、そんな人生勝ち組みたいな感じがあった。


 最初はパンを買うだけだったけれど、徐々に連絡先を聞かれたり、どこに住んでいるのかを聞かれたりと、明らかに接し方がおかしくなっていった。

 そして何より…私を見る目にどこか卑猥な要素があって、会う度に恐怖を感じるようになった。


 そして5月の中旬、事件は起こった。

 いつも通りバイトをしていたら50代くらいの女性が来店してきて、私の事を何かを堪えるような顔でじっと見つめてきた。

 思わず「どうされましたか?」と聞いたら、女性はその瞬間に表情を般若みたいに顰めて「お前が…お前が私の旦那様を誑かしたなぁ!!!」と言いながら、私に包丁を振り回しながら襲いかかってきた。

 けれど、武術の心得もない、身体能力も高くない50代女性の攻撃はすぐに見切れたので、私はかすり傷1つつかなかったが、女性の攻撃をかわしていると、あの人生勝ち組みみたいな男性がやって来た。そしてその瞬間、女性は男性に向かって鼓膜が破れそうな勢いで叫んだ。


 「旦那様ぁ!私という妻がいながらこんな小娘にうつつを抜かすなんて!」

 「い、いやこれはそのだな…」

 「旦那様にどれだけ理不尽な扱いをされても、愛されていなくても私はあなたに尽くしてきたのにぃ!」


 彼らの会話から恐らく、この2人は夫婦で、企業の重鎮の夫と専業主婦の妻…という、世間から見れば玉の輿のような幸せな夫婦…だが、実際は夫が妻にDVやモラハラ、毎日の料理や部屋の掃除にもグチグチと文句を言う、温かさのかけらもない家庭であり、それでも妻は夫を愛し、夫に尽くしていた…が。


 偶然夫が入ったパン屋で、夫は平凡な高校生のアルバイト、つまり私にしつこく絡むようになった。


 夫の帰宅時間に毎日ブレがある事に気付いた妻が、夫を尾行して調べてみると、特別綺麗でも可愛くもない私にべたべたとしていたんだから、怒りは最高潮だろう。


 仕事以外は最悪な夫に尽くし、執着する妻と、そんな妻を虐げ、若い女にうつつを抜かし、ばれても世間体を気にして妻と別れようとしない。


 …完全に共依存だ。

 …そして、そんな2人に振り回された私は、2人よりももっと惨めだった。


 世間体を気にする夫の私への懇願により、警察沙汰にはならなかった。…というのも、こんな事に時間を使うなんて、アホらしいと思って、通報しなかった。


 この他にも、高校でも男子からの見る目に明らかに性的なものを感じる時がある。

 どうやら、私みたいに大人しそうでスタイルと発育がそこそこ良い女は、男性の格好の餌になりやすいらしい。


 

 世の中単純で、アホで、馬鹿馬鹿しいものである。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ