強力な危険生物
「えっ……何で……」
「あー……なるほどね。これは厄介だ。あとメリッサ、刀の動きを止めないで」
ケントの指摘に私はハッとして、私は引き続き足の攻撃を弾くことに集中し、同じく足を弾きながら戦うケントの「メリッサー。聞いてー」という声に耳を傾ける。
「あの危険生物は、『核』があるタイプの危険生物だよ」
核?何だそれ?あと戦いながら話を聞くって本当にギリギリ……!思わず聞き漏らしてしまいそうだった。
「危険生物にはごく稀に、『核』を体に有するタイプがいるんだ。いわばその核がそいつの生命源で、その核を攻撃しない限り、そいつが倒れる事はないんだ。だからさっきみたいに、急所を撃ち抜いても死なないタイプがいるんだよー」
……何それ!?何でそんなタイプと遭遇したの!?と言いたくなったが、戦いながらだと返事をするのも難しい。私にできるのは、蜘蛛の足の動きを封じる事だけで、それがどこにあるのか、どうやって探し出すのか、そういった事や返事をする余裕はほぼなかった。
「クソかよ……!こいつ核があるタイプだな……!」
どうやらアデルも、こいつが核があるタイプだというのに気付いたみたいだ。
「核を見つけ出すには、とにかくいろんな場所を攻撃して探すしかない。まあ、胴体にある事がほとんどだから、アデルが片っ端から撃ち抜いていって見つけ出すのが、面倒だけど最短の方法だ」
なるほど。だったら私達はアデルが核を狙えるように、足の動きを封じるのが役目という訳か。
「分かった!」
そう言って、私は再び足の攻撃を弾く作業に戻った。
蜘蛛とはいえ、足の動きはただ刺してくる以外にも、私の足元を狙ったり、顔を狙ったりと、私が嫌がる攻撃を何度もしてきたので、危険生物にもある程度の知能を持った種類もいるのだと思った。
私達3人が攻撃を弾いていた時、アデルは何度もライフルで蜘蛛を撃ち抜いていたが……一向に核が見つからず、それどころか若干顔色が悪くなっていた様子から、蜘蛛の身体に直撃できる程の威力を何度も放っていた関係で、さすがのアデルも恐らく精霊力がギリギリになっているんだろう。
向かい側にいるナディアを確認すると、やや息切れをしている様子で、私も少し動きが鈍っているのを実感していた。ケントも顔色は変わっていないが、少しだけ汗をかいているのに気付いて、このままじゃ核が見つかる前に私達3人が体力切れで倒れてしまって、そのままアデルもやられてしまう可能性がある。
その次の瞬間、アデルはハッと何かに気付くような表情をすると、そのまま走って蜘蛛の背後へ回った。
「思い出したぜ……文献にさらっと書いてあった程度だけど、お前らはここに核を有してる事が多いって……!」
アデルは再びライフルを構えると「俺の力、最大まで込めてやるよ……!」と言って、そのままキュイイイインと高い音を鳴らしながら力を込め、次の瞬間、攻撃を蜘蛛の腹部のもっと後ろ、糸いぼに撃ち込んだ。
すると蜘蛛は足の動きを止め、グオオオオオオオオーーーーッと耳を覆いたくなるような声を上げた。
やった!核を撃ち抜けたんだ!と蜘蛛の前方へケントと移動すると、蜘蛛はその場に倒れ込んだ……が。倒れ込む直前、蜘蛛は何か透明な液体……恐らく唾液を口から吐き出した。
本当に一瞬だったので避ける事もできず、その吐き出した唾液のほぼ真下にいた私とケントは、私は足元だけだけど、ケントは全身に唾液を被ってしまった。
「…!?……!?」
「……」
動揺する私と、前髪から落ちてくる唾液が鬱陶しかったのか、冷静に前髪をかき上げるケントという、奇妙な構図が完成した。
「やった!倒せたー……んだけど、だ、大丈夫……?2人共……?」
ナディアが心配そうに私達を見つめてくる。
「えーと……私はまあ足元だけだけど……ケントが……」
「ん?俺は大丈夫だよ?」
唾液を全身に被るという異様な状況でも、ケントはあの明るい笑顔を浮かべる。もういっその事、ケントの猛烈に動揺する姿を見てみたいと思ってしまうくらいにはケントは冷静だった。
「お前らー……大丈夫か……」
アデルが少しふらついた足取りで私達の元へ歩いて来る。恐らく精霊力を使い過ぎて、軽いオーバーヒート状態なんだろう。慌ててナディアがアデルの身体を支える。
「あー……メリッサとケント、あいつの唾液を被ったんだな……。身体が溶けてないって事は、唾液にはそこまで強力な毒は無かったんだろうが、何があるか分からねぇし、あと気持ち悪りぃだろ。近くの森に川があったはずだから、そこで洗って来いよ。お前ら」
アデルが西側にある森を指差す。
「そうだね。さすがにこのままは俺も嫌だし、行こうか。メリッサ」
「ああ、うん……」
そんなこんなで私達は危険生物を何とか撃破し、まずはこの唾液を落とす為にケントと森へ向かう事にした。




