嫌いな食べ物
「おっせーな2人とも。一体何やってたんだよ」
私達が宿の食堂にやって来る頃、ケントとアデルは既に到着していて、どうやら割と長時間待ってくれていたようで、アデルは長椅子に右膝を立てながらラフな体勢で私達を軽く睨んだ。
「女子トーク!男子には分かんないだろうけど、女の子には同性にしか話せないような秘密の話があるんだよー」
「……何か俺には分かんねー言葉が出てきたな……」
「分かんないって何よー!アデルって女の子にモテないでしょ!」
「はっ!?」
……あぁ~。何かまた口論に発展しそうだなー……。
「まあまあ。みんな今日はお腹減ったでしょ。早く食べようよ」
ケントがナチュラルに会話の内容を変える。
「うん。私お腹空いちゃった」
そう言いながら目の前に差し出された食事を確認しようとする。そういえば、お腹が空くのも大分久しぶりかもしれない。何せ、アラクにいた頃は様々な事が重なって、ゆっくり食事を摂った事があまりなかったし、その関係でお腹が空く事もあまりなかった。
今はそんな様々な事から距離を置く事が出来ているので、自然とお腹が空いている気がする。
「メリッサ。これやる」
アデルがずいっと何かを私に渡してくる。
アデルが差し出してきたのは、小さなお皿に丸々入ったサラダだった。宿から出された夕飯のメニューはシチューにサラダ、パンが2つに果物のスライス……だったのだが。
「え……?アデル、もしかして野菜嫌いなの?」
「……」
「いや図星じゃん。沈黙するって事は、はいそうですって言ってるようなものでしょ」
いつもならケントにここまで言われると何かしら言い返しているはずだが、言い返さないという事は、隠す気がないくらいには野菜が嫌いなんだろう。
天才的な精霊の力を持ってるのに、こういった所々で見せる姿は年相応の少年そのものだ。
「何でー!?野菜美味しいじゃん!ひょっとしてアデル、食わず嫌いでしょー!」
「むっ……るっせーな!だったらお前が食べればいいだろナディア!」
「何で!?自分の分は自分で食べなよ!」
また再びアデルとナディアの口論が始まった時、私はあるものに気付き、心臓が一度大きく鳴った。
「アデル。そのサラダ私が食べるから。この牛乳飲んで」
私は透明のコップに入っていた牛乳をずいっとアデルに渡した。
「お、おう……?」
基本的に好き嫌いがほとんどない私が交換条件に、それもかなり食い気味に差し出してきたのが牛乳だったのに、アデルはもちろん、ケントとナディアも少しきょとんとした反応をしている。
「メリッサって、牛乳嫌いなの?」
ナディアが意外そうに私に質問してくる。
「うん。あ、チーズとかバターとか、そういう加工品なら食べれるんだけど……牛乳はちょっと……飲みたくないし、飲んだら拒絶反応が起こるから」
「きょ、拒絶反応……!?」
「おいメリッサ……牛乳飲まなかったら身長伸びねーだろ……」
「……メリッサより小さいアデルが言える台詞じゃないと思うけど……」
「あぁ!?」
三者三様の反応を示す中で、私は過去の事を思い出した。
……あの時強引かつ大量に飲まされた牛乳の、妙に甘ったるくて酸っぱいあの感じ。
できる事ならもう一生口にいれたくないな。過去をつい思い出してしまい、気持ちを落ち着ける為にも私はアデルから貰ったサラダを口に含んだ。




