ルカのお母さん Side:ナディア
ルカは自分の母親の事を語り始めた。
「お母さんは、僕と同じで紫色の髪の毛の持ち主で、この前話したみたいに美容師の仕事をしてる人だったんだ。すごく綺麗で優しくて、誰に対しても誠実に接する人だったんだけど……。
僕みたいな髪色の女性がこの国で酷い扱いを受けるのは、君ならよく分かってると思う」
……それはもう。心臓を剣で貫かれるくらいに、痛いくらいによく分かる。ルカのお母さんの人柄は完璧には分からないけど、少なくともルカみたいな、本人の事情とは関係のない人にまで辛い思いをさせてしまうくらいには大変な思いをしていたんだと予想ができた。
……そう思うとお父さんは、私の知らない所でずっと辛い思いをしていたのかもしれない。お父さんもそうだけど、お母さんは娘もそうだし、自分自身も派手な髪色をしているので、もっと辛い思いをしていて、それでも私の事を考えて明るくしているのかもしれない。そう思うとぎゅっと胸が締め付けられた。
「……でもおかしいじゃないか。本人の人間性や能力も見ないで、見た目だけで何もかも判断して迫害したりするなんて。
だからお母さんは子どもの頃から親はそうだし、僕の父親……お母さんの夫だった人にも捨てられて、仕事中も色んな人から妨害行為を受けて、でも相談しても誰も力になってくれなくて、けれどそんな振る舞いをする人も、男の僕にはそんな事一切しないんだ。……何から何までおかしいしめちゃくちゃじゃないか」
話を聞くだけでも頭が狂いそうなその話を、経験したルカの辛さは計り知れない。それに、ルカをよく知らないで偏見を抱いていた以前の私も本気で殴りたい。
「……でもお母さんは、どんな人も美しいんだって、前向きに信じ続けてたんだ。だから誰かを綺麗にする手助けをする、美容師の仕事をどんな時でも続けたんだ。そんなお母さんの考え方と姿勢に憧れて、僕も美容師になりたいと思ったんだ。
……でも、どれだけ前向きな人でも、心の強さは絶対じゃない。お母さんは1か月前に心労が理由で突然病に倒れて……。そのまま帰らない人になった。
悲しかったし辛かった。お母さんが望んでた世界は、実現できないのかなって。……そんな時に出会ったんだ。君と」
ルカは私の目をじっと見つめる。
「あの時僕を助けてくれた君を見て……ああ、やっぱり、人の美しさに答えなんてないんだって。そして、そんな答えを信じていいんだって思ったんだ。君は見た目もそうだけど、心が本当に綺麗だ」
「えっ……」
面と向かってストレートに褒められて、思わず顔に熱が集まり、心臓の鼓動のスピードが上がる。
「そのリボン、実はお母さんが使ってたものなんだ。お母さんが亡くなってから持っているのも辛かったけど、本音を言うと君に持っていてほしいな。その方がお母さんも喜びそうだ」
「……」
ルカが私の事を信用してくれてるんだと嬉しかった。でも、私がそんな期待を受けても良いのかと思った。するとルカはさらに衝撃的な事を言い始めた。
「僕、心臓の病気で余命がもう本当に僅かなんだ」




